過去が会いに来た日

過去が会いに来た日

過去が会いに来た。


「久しぶり。元気にしてる?」


あっけない再開だった。


もう10年も前に終わったことと高をくくっていた私を嘲る様に、そっくりそのまま現れた。


何の因果か、得てして人生の潮目が変わる時にこそ、不意の遭遇は起こるものだ。


変わった景色の中、変わらない高架下で二人。


急行が通り過ぎて、湿った不快な空気がまとわりつく。


「変わらないね」


やけに鮮明に響く言葉は、それでも平等に喧騒の中に飲まれていく。


時間をかけて硬直した表情筋も、腫れあがって鈍くなった矮小なプライドも今だけはきっと味方だ。


あの頃はさ――。


今は俺さ――。


そういえばあいつらは――。


擦り切れたはずのフィルムはまたも繋がれた。


手元のグラスはずっと冷たい。


「懐かしいよな。」


路地を吹く心地よいはずの風は、かき消してくれるほどの強さを持たない。


いつもなら足を急がせる雨も頼れそうにない。


腹立たしいほどに静かな夜だ。


「またね。」


改札前、電光掲示板の文字だけを支えに絞り出した。


それが今の私にできる最大限の抵抗だった。

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過去が会いに来た日 @jin_dr

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