浮気調査をしていたら、異世界に行った件

シーサル

第1話

俺、草壁丸人は探偵である。

個人経営で、主に不倫調査などの追跡を受け持っている。

あくまで不倫。浮気は……ある経験から出来ない。


これまでに10人ほどの浮気現場を押さえてきた実証がある。


トツトツトツ


と階段を登る音がする。

身だしなみを再度整えて準備をした。


「すみません……」


とやってきた女性。

髪はロングで、イヤリングをしている。

そして薬指には指輪がはまっていた。


「どうも。こちらの席へどうぞ」


前に置かれたソファーに誘導する。


女性は辺りを見渡しながら緊張した様子を見せる。

相手が落ち着いたのを見て、再度声を掛けた。


「今回はどんな要件で?」

「私の夫が不倫していないかを調査して欲しいんです」

「不倫ですか」

「はい」


やはりそうか。


「その様な考えに至った動機を教えていただけますか?」

「はい……」


彼女は和田 茜という名前で、夫、和田 明と4年間の交際を経た後に結婚。

今年で2年目だと言う。


疑問に思い始めたのは最近で、彼氏がソワソワし出した様な気がしたとの事。

また、直近は帰って来る時間が遅くなっていて、夫の会社に電話した所、いつもと同じ時間に帰ったと言う。


それならば夫は何をしていたのかと疑問に思う訳だ。

しかもそれが数回行われているらしい。


「私が悪いんでしょうか?私が気に食わなかったからッ」

「落ち着いてください。そんな事はありませんから」


お茶を出す。


「それにまだ確定した訳ではありません」

「でも……」

「もしかしたら帰りにパチンコに行っているだけかも知れませんよ。それで大損したならば中々言い出しにくい物ですから」

「確かに……」


あくまで例だが。


「他に情報となる物は?」

「後は……う〜ん……」


また口を開く。


何と夫の容姿が少し変わった様な気がするとのこと。

更に筋力も上がっている様な気がするらしい。


容姿が上がるのはわかるが筋力が上がる?


「スマホをよく触るなんて事は……」

「無いです」


……

となると計画的?それとも無実?


「それぐらいですかね……」

「分かりました。では早速今日から追跡を始めたいと思います」

「ッ!ありがとうございます!」


彼女に会社の場所を聞き、普段の会社を出る時間を聞いた。

彼の写真も貰ったので、後は少し前から会社に張り付くだけだ。


女性が去っていった後、証拠写真を撮るためのカメラなどの確認を行う。

今日は店を閉じて、時間が過ぎるのを待とう。


---


夕方5時半。

俺は夫の仕事場所についた。


いつもは6時に出るという事なのでこの時間からなら安心だろう。

怪しまれない様に何度か通り過ぎるなどの工夫を凝らして彼が出て来るのを待った。


「いた」


男が会社から出たのを見て、俺は一層警戒を高める。

彼の目に留まって仕舞えば作戦は終わり、逆に妻側が攻められる可能性がある。

それだけは避けたい。


ある程度の距離を置いて、彼についていく。

家の方向に近づいている。

となると今日は何もせずに帰る?それとも気づかれている?


「ッ!」


その瞬間、足を止めたかと思うと辺りを見渡した。

俺は視線を逸らす。


「……」


周辺視野で彼を追うと、突然路地裏に入った。

帰宅ルートとは大きく外れる。何かある!


少し速さを高めて俺もその路地裏に入り彼を見つめる。


「え?」


途端、地面に魔法陣が発生して何かが開いた。

しかも男がそれに入り込もうとするではないか。


「何だ何だ?ともかく写真を……」


焦りながらも撮ろうとする。

しかし、そのワープホールの様なものが縮まっていくのを見て、このままでは不味いと感じる。


「あぁもう!何だか分からんが行くか!」


走り出して俺はそのワープホールに入り込んだ。




「何だこれ……」


目を閉じて目覚めるとそこには草原が広がっていた。

着地した瞬間、カメラが破損していたが俺は混乱にあまり気づかなかった。


「?」


そこで、目の前にいた夫、つまりは和田 明に見られた。


「えっと……不味い」


と言いながら彼は何処からか剣を取り出し振り上げようとするではないか。


「ちょ!それ俺のセリフ!」


急いで逃げようとしたその時、彼は剣を振り下ろした。


「死ぬッ!」


と死を直感した所で振り下ろす音は止まった。


「へ?」

「すみません……焦ってしまって……」


と次の瞬間では明は土下座して俺に謝っている。

それもそうだが、何よりこの現実離れした光景に頭が混乱して一瞬気絶する。



「ハッ!」


意識が覚醒するとそこは知らない天井だった。


「目覚めましたか」


と明の声がして振り向く。


「ここは一体どこなんですか?」


と一番の疑問を彼に投げつける。


「ここは……うーん……異世界といえばいいですかね?」

「いいいいいいいいいいい異世界???」

「そうなんですよ。すみません。まさか人が巻き込まれると思わなくて……」


更に話を聞くと、自身もちょうど1ヶ月前にここに来たのだと。

1ヶ月前といえば、丁度明の帰りが遅くなった頃である。


突然ホールが現れ吸い込まれて、急に勇者だと言われて魔王を討伐しろと言われたらしい。一応一日ほど現実には戻れるが、毎日同じ時間にホールが開いてそれに飛び込まないと死ぬという。


「あぁ……えぇ?ん?んんん?」


分からん。

異世界って何だ?

現実離れしすぎだろ……


「すみません本当に!」

「大丈夫ですけど……」

「次に戻れるの、1ヶ月後なんです!」


???????


どうやら現実と時間の差があるらしい。

こっちの1ヶ月が向こうの3時間?何だそれ?


つまり彼はここに合計で30ヶ月いると言うこと?


「えっと……とにかく俺はどうすれば?」

「貴方は別に勇者でもなく巻き込まれた身なので、別に魔王討伐をする必要はないので、とにかくここでずっと泊まっていただければ……」


ピコンッ


瞬間、目の前に青いスクリーンが現れる。


「あの……何故か勇者の仲間に選ばれたとありますが……」

「……」

「あの……」


少し間を開けた後明は小さな声で呟いた。


「勇者とその仲間は必ずモンスターを特定の数倒さなくては行けなくて……ですのでその……」


「そ……その?」





「すみません!前言撤回であなたも戦って頂けなければ死にます!」

「おい!」


壮絶な1ヶ月の旅が始まる……


(3話ほどで終了予定)


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