『無能スキル持ち?いいえ、最強のスキルクリエイターです』

一ノ瀬 凛

第一章 無能スキル持ち?

第1話 異世界転生と無能スキル

 ――あれ、俺は……?


 一ノ瀬カナメは、目を開けると白一色の空間に立っていた。

 学校帰り、イヤホンで音楽を聴きながら横断歩道を渡ったとき――突然視界が真っ白に染まったのを覚えている。耳をつんざくようなクラクション、迫りくるトラックの影。

 そこで記憶は途切れていた。


「……死んだのか、俺」

 呟いた声が、やけに虚しく響く。


 そのとき、柔らかな声が空間に降り注いだ。

「はい。あなたは交通事故で命を落としました」


 振り返ると、そこには白銀の髪を持つ女性が立っていた。輝く衣を纏い、浮世離れした美貌を持つ彼女は、明らかに人間ではなかった。


「私はこの世界を司る女神のひとり。あなたを次の世界へ導く者です」

「……女神、か」

 カナメは目を細める。こういう展開は小説や漫画で読んだことがある。いわゆる“異世界転生”というやつだ。


「あなたには、新たな世界で生きる権利が与えられます。そのための力――スキルを授けましょう」

「スキル……」


 女神が手をかざすと、淡い光がカナメを包む。

 心臓が一度、大きく跳ねる。

 そして頭の奥に、文字のようなものが浮かんだ。


スキル:【スキルメーカー】

効果:既存スキルを模倣し、新たなスキルを創造することができる。ただし、生成されるスキルは元の劣化版となる。


「……は?」


 カナメは思わず声を漏らした。

 スキルメーカー? なんだそれは。チートっぽい響きなのに、最後の一文が致命的すぎる。


「劣化版しか作れないって……それ、ほとんど役立たないんじゃないか?」

 思わず女神に問いかける。


 しかし女神は穏やかな微笑みを浮かべるだけだった。

「それがあなたに与えられた力です。使うか、捨てるかは自由……ただし、無駄な力などひとつもありません」


「……便利な言い回しだな」

 カナメは自嘲気味に笑う。


 力強い攻撃魔法でもなければ、身体能力を強化するものでもない。最初から「劣化コピーしか作れません」なんて宣言されている時点で、戦闘では役立たないのは明らかだった。


 だが――。


(……本当に、無駄じゃないのか?)


 女神の言葉が頭に残った。

 無能スキル。そう思えば簡単だ。けれど、女神がわざわざ「無駄な力はない」と言った意味。


 考える間もなく、カナメの体が光に包まれる。


「異世界での人生……どうか、後悔なきように」


 女神の声が遠ざかり、視界は光に飲み込まれた。



 ――次に目を覚ましたとき、カナメは見知らぬ草原に倒れていた。

 頭上には雲ひとつない青空。風が草を揺らし、見たことのない鳥が空を舞っている。

 まぎれもなく、異世界だ。


「……はは、マジかよ。本当に転生しちまったのか」


 胸の奥に浮かぶスキルの文字が、妙に現実味を帯びてくる。


スキル:【スキルメーカー】(劣化コピー専用)


「……よりによって、こんな外れスキルで異世界生活かよ」


 そう呟いた一ノ瀬カナメの表情には、諦めと――それでも捨てきれない微かな期待が同居していた。


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