3輪目の出会い
「鎌っちー、おはよう」
「鎌ヶ谷君、おはよう……」
「おはよう」
小、中学校の頃には話し相手が1人もいなかった俺が、今では朝来ると挨拶をし合える友達が2人できた。
♢♦︎♢♦︎
そして友達ができて初めての週末がやってきた。
琴羽は俺の部屋に勝手に入ってきては俺のベッドに横たわり、言ってきた。
「おにぃー、ひまねぇーと遊ばないの?」
「まぁ……」
俺も正直言って週末、遊びに誘われると思っていた。だって友達って休みの日とかにみんなで遊ぶものじゃないの?ネットにも書いてあったし……。
「ひまねぇーに電話かけてみようよ」
「そんなことできないよ」
「なんで?友達なんじゃないの?」
「朝野さんも忙しいだろ……多分」
俺なんかが朝野さんを誘うなんて無理、無理だろ!そんなの初期装備でラスボスに挑むより難易度高いぞ。
「おにぃーにせっかく友達ができて琴、嬉しかったのに」
「でも俺から誘うには勇気が……それに俺なんかが朝野さんを誘うなんて……」
「まぁ、ぼっちでヘタレで根暗なおにぃーに誘われても嫌か」
ちょっとくらい「でもおにぃーならいけるよ」とか「琴は嬉しいと思うなー」とか励ましの言葉くらいあっても良くない?さらに俺を刺してきてるじゃん。俺はそう思ったが心の中に留めておいた。
「ちょっと、外出てくる」
「えっ?おにぃー怒っちゃった?」
「いや。気分転換」
俺はそう言って外に出た。ほんとうに怒ってはいない。琴羽はいつもあんな感じで慣れっこだったからだ。だけどこの心のモヤモヤを晴らしたかった。
♢♦︎♢♦︎
外に出てしばらくすると公園に出た。「きのこ公園」。シンボルの滑り台がきのこに似ているから俺はそう呼んでいる。そこを通ると小さな少年が滑り台の下で泣いていた。
「うぇーーーん」
俺はその少年を通しても無視することができなかった。いつもの癖だ。小さい頃から泣いている子供は見過ごすことができないのだ。
「大丈夫か?」
「うぇーーーん。お姉ちゃんがどっか行っちゃった」
「わかった。お兄ちゃんに任せろ!一緒に探してやるよ!」
俺は笑顔で少年に言った。俺の笑顔を見て安心したのか少年は泣き止んでくれた。
「君、名前は?」
「
「渡くんか、いい名前だね。俺は悠人。よろしくね」
俺は優しく渡くんに言った。妹がいるため年下の扱いには慣れている。
俺は渡くんの手を握り公園の外に出た。
「渡くんはお姉ちゃんとどこではぐれたの?」
「おもちゃ屋さんで新しいゲーム見てたらお姉ちゃんがいなくなっちゃった」
「なるほどな。ならまずはそのおもちゃ屋さんに行ってみよう」
俺は渡くんを連れてここから1番近い商店街にあるおもちゃ屋に向かった。
俺たちはおもちゃ屋さんに着いた。秋田玩具店。この商店街で50年以上続いている歴史ある玩具店だ。レトロゲームから最新のゲームなど幅広い年代のゲームが置いてある。
「すいません」
「何か欲しいものがあるのかい?」
中から店主のおばあちゃんが出てきた。
「そういうわけではなくて・・・・この子と一緒に来ていたお姉ちゃん知りませんか?」
「あーーさっき来てくれた子だね。お姉ちゃんなら君を探しに行くって行って出て行ったよ」
どうやら渡くんのお姉ちゃんも渡くんのことを探しているらしい。
俺は渡くんを連れておもちゃ屋さんを後にした。
俺たちはおもちゃ屋さんを出た後、商店街を捜索した。八百屋さん、洋服屋さん、魚屋さん。多くの場所をまわったが、渡くんのお姉ちゃんには会えなかった。
「お姉ちゃん、僕のことなんて置いて行っちゃったのかな……」
「大丈夫だよ。絶対に見つかる!」
不安がっている渡くんを少しでも元気にするために笑顔でそう言った。ほんとは見つかる確証なんてなかったのに……。
「渡、居たーー」
後ろから声がした。
「お姉ちゃんーー」
渡くんのお姉ちゃんが来てくれた。彼女は顔の輪郭がしっかりとしていて茶色がかった髪を後ろで結んでいる。誰がどう見ても美人と思えるような人だった。おまけに白いニットのような肩を出した服を着ていてラベンダーのようないい香りがした。
「渡を助けていただいたんですよね?ありがとうございってあれ?君どこかで見たような……」
「多分初めましてではないですか?」
「あっ!思い出した。君、鎌ヶ谷悠人君だよね!」
「なんで俺の名前を……」
「私、
俺はその言葉を聞いた瞬間気づいた。彼女は朝野さんと同じ「玉城山学園の六花女子」の1人だ。普段から面倒見が良くて男女共に人気がある。
「ひまちゃんから聞いたよ。めちゃくちゃ面白い男の子と仲良くなったって」
「それ……俺をいじってるだけです」
「ほんと?ひまちゃんはそんな感じに見えなかったけど……・・・・まぁいいや。渡の件のお礼もしたいし今日、家来ない?」
「えーーー」
♢♦︎♢♦︎
俺、鎌ヶ谷悠人は生まれて初めて女子の家に入ってしまいました。まず家に入ったら何をするんだっけ?手洗いか?それとも風呂?わからねぇー。またもや悠人の脳に過大な負荷がかかった。
「ただいま〜」
「ふふふ、おかえり?初めて来たのにただいま?かわいいね」
初めて来たら普通「お邪魔します」とかだろ!「ただいま」って何言ってんだ俺ーーー。
「ご飯ご馳走させて」
「そんな……大丈夫です」
「遠慮しないで。私の料理、結構美味しいって有名なんだよ」
「どこかで作ったりしてるんですか?」
「うん。家で」
「家かい!」とツッコミたくなったが心の中に留めておいた。
「悠人君、アレルギーとかある?」
「特には……ないです」
海風さんはそれを聞いてキッチンで何かを作り始めた。
「お兄ちゃん、ゲームしよ?」
渡くんが声をかけてきた。俺にずいぶん懐いてくれたらしい。
「よっしゃ!やろう!」
俺は渡くんとゲームを楽しんだ。すると海風さんが料理を作り終え、テーブルにおいた。
「出来たよ!」
テーブルの上には生姜焼き、ご飯、味噌汁、漬物だった。それはお食事処の定食のようだった。俺は渡くんとのゲームを中断して席に座った。
俺は席に座ると
「いただきます」
と言って、生姜焼きから食べた。
「美味しい」
つい口からこぼれてしまった。ほんとうにこの料理は美味しい。しっかりと生姜が染み込んでいて、肉が口の中で踊っているような幸福感に満たされる感じがした。
「でしょ!私のご飯世界一だから」
海風さんは笑顔でそう言ってくれた。
俺はその笑顔を見て
「かわいい」
とこぼしてしまった。やばい口が滑った。なんで急にそんなこと言っちゃったんだろ。初めての家で浮かれすぎた。今日は何かいつもとおかしい。
「えっ?なんか言った?」
海風さんには聞こえてなかったらしい。よかった。・・・・こんなの言ったってバレてたら俺は海風さんとこれからまともに目を合わせることもできなかっただろう。
「ごちそうさまでした」
俺はそう言って、食器をキッチンに運び込んだ。
「皿洗いくらい俺がします」
「大丈夫だよ。私が後でやっておくよ」
「でも……」
「ほんとに大丈夫!お姉ちゃんに任せなさい」
「俺のお姉ちゃんじゃないんだが……」
「ふふふ、ほんとだ」
俺は学校では海風さんと話したことがないけどこれが海風さんの本来の姿だと感じた。
「今日はありがとうね」
「こちらこそありがとうございました」
「お兄ちゃんもう行っちゃうの?」
「うん。もう帰らなきゃ」
「渡ももっと遊びたいらしいし、時々遊びに来てよ」
「わかりました」
「お兄ちゃん絶対だからね」
「うん。ではお邪魔しました」
俺が帰ろうとすると海風さんがそれを止めた。
「あの、最後にいい?ひまちゃんのことよろしくね」
「はい……?」
俺は海風さんの言ったことがわからないまま家を後にした。
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