真章:第28話【創世期②】
「奏くん。僕が変わろう」
黙り込む奏の傍らに控えていた黒崎医師が立ち上がる。
「こちらのデータをご覧ください。」
黒崎医師は補佐官らに新たに書類を渡す。
「これはなんだね、黒崎先生?」
「今、お渡ししたデータは、僕達の研究機関が日々観察し収集していたデータの一部です。これらのデータは国の研究機関のものです。当然、入念な精査を受けたデータであり、あなたが言うところの、至極『客観的なデータ』です。今から話す内容は、これら客観的な資料を用いてご説明します。よろしいですか?」
「…ふん。早く話したまえ。」
補佐官は、黒崎医師の言葉に若干の苛つきの表情を浮かべながら、話しの先を促す。
「はい。以前に僕達研究機関は、この甦生化現象は88歳以上の高齢者のみに発生していると報告を行いました。」
「そうだったな。それがどうした?」
「しかし、ここ最近、88歳未満の人間でも甦生化現象が発生している事例が見受けられました。」
「何?」
補佐官の顔に戸惑いが浮かぶ。
「それらの事例はわずか数件。全体から見れば数%にも及びません。」
「…何が言いたい?」
「しかし、この数%の事例が、何をもたらすか。想像できますか?」
「どう言う事だね?」
今まで沈黙を貫いていた総理大臣が発言する。
「この事例が表す意味は、”甦生化現象の発生年齢が下がっている”。つまり、”高齢者以外でも甦生者になるかもしれない”と言う事。」
「な!」補佐官の顔色が変わる。
黒崎医師は説明を続ける。
「言わば、もしかしたら『あなた自身』が『今この瞬間』に『甦生者になる』可能性がある、と言う事です。」
「な、なんだと! 何を言っているんだ、君は!」
黒崎医師の言葉に、補佐官が驚愕する。
「しょ、所詮、想像だ! 僅か数件の事例を大袈裟に語っているだけではないのかね!」
「そう! 想像です。しかし…研究者としてはまことに遺憾ですが、この甦生化現象はすでに科学的見地を超越しています。言わばこれは『奇跡』。』
「奇跡、だと? それが研究者の発言かね!」
「そうです。奇跡です。奇跡がもたらすものなど、常識で究明できるわけがない。想像を超える事態に発展するかもしれない。だからこそ、我らは一層意欲的に『未来を予想し想像』しなければ、変化に対応できなくなる。」
黒崎医師の説明に、
「つまり、君の言おうとしている事は…。」
今まで沈黙を保っていた総理大臣が、その先を促す。
「奇跡に起因する現象を予測するには、手元にある数少ないデータと、人間の思考や予感を持ってして、未来を想像しなければ、僕らは変化に対応できない。僕達はこれまで、想像力を活用してここまで来ました。そしてこれからも、その想像力を全力で活用して検討を進めていきたい。そういう事です。宜しいでしょうか、補佐官?」
「…。」
黒崎医師の言葉に補佐官が黙り込む。
そして、
「…皆さん。」
暫くの沈黙の後、最初に口を開いたのは総理大臣だった。
「対談を、続けましょう。」
総理の声は穏やかだった。
「ありがとうございます、総理。」
黒崎医師は総理に頭を下げる。
対談は、続く。
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