真章:第23話【調律記①】
施設の生活の様子を映像化する為の関係者への説得は、黒崎医師が行ってくれた。
中には、訝しむ家族もいたという。
それは蘇り現象に対する社会の認識が一枚岩ではない事を痛いほど感じさせたが、大半の家族は映像化に同意してくれた。
医師と介護士職員の、日頃の熱心なケアが、家族の信用に結びついたのだ。
…
映像を社会に放送するにあたり、マスコミは信用できない。
過去の映像を省みるに、大半のマスコミは、蘇った老人を『ゾンビ=怪物』として報道する。
利益を背景とした政府との密約があるのかもしれない。
マスコミの影響力は巨大だが、頼るわけにはいかない。どう曲解されるか知れないからだ。
ネット上にある動画共有サイトを利用するしかなかった。
…
インターネット上の動画共有サイトで、老健[縁寿]の隔離棟の映像が流された。
蘇ったお年寄りの日常の様子が映像の中に映る。
のんびりと日向ぼっこをするお年寄り。
面会に来た家族と穏やかに過ごすお年寄り。
介護職員と一緒に静かに散歩に興ずるお年寄り。
その映像は、普通の高齢者施設の様子と何ら変わりはなかった。
隔離棟だと説明がなければ、蘇ったお年寄りが生活を営む施設とはわからない程、危険な様子などまるで感じさせなかった。
映像と共に、蘇ったお年寄りに危険はなく、政府の新法案は間違っている事を示すテロップが流される。
…
しかし、肝心の社会の反応はと言うと…、
動画共有サイトへのコメントや、掲載したメールへの反応はいくつかあった。
そのほとんどは介護職や看護師などの同業者からの友好的な内容であった。
しかし、その数は少なく、社会全体が反応を示しているかと言うと、決してそうではない。
社会の大半は、立志達の活動に無関心なままである。
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