25
その後の話を、すこししようとおもう。
ボクは病院のベッドのうえで目を覚ました。体中にチューブがつながっていた。ボクは右腕をあげようとしたが、それさえできなかった。
これが、この世界のボクだ。
ボクはまどろんで、目覚めたばかりなのに、また眠りにおちていった。つぎ見る夢がまたあの場所だったらいいのに──そんなことをおもいながら。
× × ×
不思議なことに、ボクの病気は急激によくなった。医者も理由がわからないくらい、ボクはみるみる元気になっていった。
これはボクの推論だけど、悪夢の国での冒険がボクの魂──隠者は〝思念体〟といってたっけ──をつよく鍛えたんじゃないかとおもう。その影響が体にもおよんで病気が治ったんじゃないかと。
それからしばらくしてボクは病院を退院した。いまではふつうに学校にかよえるまでになっている。
ふつうの友達と、ふつうの毎日をおくっている。王子の友達はここにはいない。
(あれは夢だったのかな)
なんておもうこともある。こちらの世界での日々を経るにつれて、悪夢の国の記憶が曖昧になっていった。
そんなときだ。事件がおきたのは!
真夜中に眠っているボクの体をゆする人がいた。ボクが目を覚ますと、目の前に悪夢の国の王子グリムがいた!
「グリ──」
叫びそうになるボクの口をおさえたグリムは、
「お前の家族が起きるのはマズい」とささやいた。
平静さをとりもどしたボクは囁き声でいった。
「なんでグリムがここに?」
「重大な事件がおきた。お前の助けがいる」
「事件?」
「ああ、じつは銀の鍵がぬすまれた。しかも犯人は人間だ。銀の鍵はいま人間界のどこかにある。下手すりゃ地球上のすべての人間が死ぬぞ」
「それは……大変だ」
「だから手伝え」
「ボクが?」
「そうだ。悪夢の国を救ったお前だ。つぎは人間界を救うぞ」
「ボクが!」
「だからそうだといってるだろ。ほれコレ」
そういうとグリムはベッドの上に、ぽんっ、となにかをほうり投げた。鍋蓋だった。
「おい、人間。グズグズするな。いくぞ」
「う、うん」
ボクは、また寝巻きと裸足のまま、冒険へと出発した。
ボクと悪夢の国の王子 葛飾ゴラス @grath-ifukube
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます