23
ボクは、グリムの左腕をボクの肩にまわし、体を支えて歩いた。グリムはあるくたびに右手の火傷と胸の骨折の痛みに顔をしかめた。
ボクとグリムが隠者を発見した直後に、ダインスレイフもやってきた。
「駄目だったか……」隠者の姿をみて、魔剣はぽつりと口にした。
隠者は、腹部にルキフグスの短剣が刺さったまま、通路の壁によりかかるようにして死んでいた。
「あれは……なんだ」グリムは、右手と胸の痛みにもだえながらも、隠者の手元を指差した。「なにか、にぎってるぞ」
ダインスレイフが、隠者の傍らに膝をついて、握りしめられた手をゆっくりとひらいた。
「鍵だ! これは、銀の鍵!」
ダインスレイフは銀の鍵をグリムにわたした。
「おそらく腹を刺されながらもルキフグスからコレを掠め取ったのだろう。ビスマルクの奴め、やりおるわい」ダインスレイフはそういながら顔をほころばせた。
グリムは銀の鍵を受け取り、「ビスマルク先生……先生の遺志はオレが継ぎます」と隠者に誓った。そして、「いそごう。ルキフグスを止めなければ」と、ふたたび足を踏み出した。
× × ×
城の最奥にある聖堂で、ルキフグスの下僕らによって召喚の儀式の準備がすすめられていた。
「準備はまだか! はやくしろ!」
ルキフグスは聖堂にはいるなり怒鳴った。下僕らはおののき、焦り、緊張し、燭台をたおしたり、魔術の触媒につかう粉末をばらまいたり、しくじり、脳ミソが強張り、さらにミスをくりかえす、という悪循環におちいった。
「なにをやっとるか、キサマら! いそげ! 時間がないぞ!」
ルキフグスは顔を真っ赤にしてわめき散らした。
しばらくして、儀式の準備は完了した。ルキフグスはイライラしながら数人の祭司に儀式の開始を命令した。祭司たちは計画9号を讃え、悪夢の国を生贄に捧げることを誓い、自分たちの生命体としてのさらなる進化と上位者との霊的統合を祈願した。
「ルキフグス! そこまでだ!」
聖堂に響きわたったのは、ボクの声だ。こんな大声をだしたことはいままでになかった。なぜならボクは怒っていたからだ。こんなに怒ったのは生まれてはじめてかもしれない。ルキフグスがゆるせなかった。自分の欲のためだけに他人を、隠者を、
ルキフグスは驚いた顔をしていった。
「なぜ、生きている? アイツら、しくじったか。つかえない連中ばかりだ」
「もう……おわりだ。あきらめろ、ルキフグス」グリムは声はふるえていた。
「グリモワール王子、死にかけの状態でなにができる? 儀式はもう最後の段階だ。いまから
ルキフグスが両腕を頭上に掲げる。すると、空間にひと筋の線が引かれた。その線は裂け目となり、口を大きく開くと、宇宙があらわれた。ボクが図鑑などの写真でみた、大小の星々がばらまかれ、ガスや塵のあつまった星雲が虹色に輝いている、
ボクが呆気にとられていると、宇宙が裂け目からはみ出して膨れていった。まるで、こちら側に来ようとしているかのように──もしかして、アレが計画9号!
「ハハハハハハ! 私の勝ちだ!」ルキフグスは勝ち誇っていた。
「父上がゆるさないぞ」とグリムは銀の鍵をだした。
「なぜそれを! くっ、ビスマルクか……フン、まあいい。いまさらそんなものに用はない。鍵だけでなにができるというのか。門ははるか遠くにあるというのに」
「門ならココにある」グリムはいった。
「はあ? なにをいってる。頭がおかしくなったか」ルキフグスは
「オレ自身が門になればいい」
そういうとグリムは自分の胸に銀の鍵を挿した。
グリムの声が響く。
「我がグリモワールの名において! 悪夢の国王モロクを召喚する!」
と詠唱すると胸の鍵をまわした。
ガチャリ、と音がした。するとグリムの頭のてっぺんからヘソの下までが真っ二つに裂けた。その裂け目から巨大な〈なにか〉が一気に飛び出した。巨人だ。五階建てのビルくらいはありそうな巨人だ。人間に似た上半身にヤギの下半身、頭には大きな四本の角、背中に六枚のコウモリの翼があった。
巨人の咆哮がビリビリと空気をふるわせた。巨人が右手の鉤爪で膨張した宇宙を切り裂く。すると宇宙は怯えたように急激に縮小し、穴のなかに逃げこんだ。そして穴はふさがり、消えてしまった。
巨人はルキフグスを見下ろす。
ルキフグスは恐怖でふるえていた。
「モ、モロク様……これには深い理由が──」
言い終わるまえに、ルキフグスは巨大なヤギのひづめに踏みつけられ、すりつぶされた肉の塊になっていた。
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