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「ルキフグス! とまれ!」隠者は数百年ぶりに大きな声をだして怒鳴った。

 通路の先を歩いていたルキフグスが立ち止まり、ふりむく。

「アンタもしつこいお方だ。頑固ジジイは嫌われますぞ」

 ルキフグスは呆れていた。

「お前の好きにはさせんぞ。ルキフグス」

 隠者は息を切らせながら歩みをすすめる。

「これから大事な儀式があるんでね、邪魔者はご遠慮ねがいたいところですが……まあいい。アンタくらいなら私でも始末できる」

「儀式? 計画9号を召喚するのか」

 隠者の言葉にルキフグスは豹変し、烈火のごとく怒った。

「無礼者! その蔑称であの方をよぶな!」

計画9号﹅﹅﹅﹅が召喚されれば、この国全体が彼奴にとりこまれてしまう。彼奴と一体になりたいのならお前ひとりだけでいいではないか」

「だーかーらー。その名を口にするなっていってんだよ、糞ジジイ」

 ルキフグスが近づいてくる。その手には短剣がにぎられていた。

「ルキフグス。お前の野望は決して成就しな──」

 短剣が隠者の腹部に刺さった。

 ルキフグスは、刃をグリグリと回転させて、隠者の内臓をえぐった。短剣から離した手に隠者の血液がついた。

「ぐえっ、きったねえ。やっぱりアンタの血は青いんだな。気持ち悪りぃ」

 隠者は、ふらふらと後じさりすると、通路の壁にもたれるようにして、床にくずれた。

「王子が……かならずお前を……倒す」

 そう声をしぼり出したあと、隠者は事切れた。

「ほざけ。ボケ老人が」

 ルキフグスは隠者の亡骸に唾を吐いた。

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