20
天使たちのほうがたくさんダメージをうけているのに、劣勢なのはボクとグリムのほうだった。その理由は天使たちの回復力だ。グリムが鉤爪で切り裂いた傷はたちまちふさがり、ボクの鍋蓋の盾で砕いた骨もいまでは元通りになっていた。
一匹だけ──グリムが鉤爪で胸を
のこり四匹。しかしボクもグリムも、すでにだいぶ疲弊していた。
天使のうちの一匹が妙なうごきをした。四つん這いになり、力をためているようなしぐさをしている。耳まで裂けた口を大きく開くと喉の奥までみえた。すると喉の奥から光がもれてきた。光はだんだん強くなり、ついには大きな光の球体となった。
なんかマズい! ボクもグリムも直観でそう感じた。
天使は四つん這いの手足を踏ん張ると、グリムにむかって、口からレーザービームを発射した。間一髪! グリムは身を躱して被弾を避けた。
天使たちは次々と四つん這いになり、ボクとグリムに照準を合わせた。
「逃げろおぉぉ!」グリムが叫ぶ。
ボクはとりあえず走った。ボクのすぐ後ろにレーザービームが着弾する。その衝撃でボクは吹き飛んだ。顔をあげると次のビームが放たれようとしているのが目にはいった。
間にあわない──
ボクは身をまるめて鍋蓋の盾に隠れようとするも、鍋蓋は小さすぎた。ビームが発射された。光がボクをつつむ──しかしボクは無傷だった。
『盾に受けた力とおなじ力を跳ね返すんだ。だから強い力であればあるほど跳ね返す力も大きくなる』
たしかグリムがそんなこと言ってたっけ。まさにその通りだった。
鍋蓋にあたったレーザービームは、一八〇度方向転換して、ビームを放った天使自身の頭を蒸発させていた。
別の天使がボクにビームを撃とうとしている。立ち上がって鍋蓋の盾をかまえる。発射されたレーザービームが鍋蓋に着弾するとまばゆい光を放った。次の瞬間、鍋蓋からレーザービームが発射されたかのように光の弾丸が一筋に飛んでいき、「ジュッ」という音とともに、天使の首から上を消し去った。さらに、運悪く後ろに立っていた別の天使の心臓をも貫き、胸に大きな風穴をあけた。
三匹たおした! のこり一匹!
その一匹をさがすと、壁際にいた。みると、グリムをつかんで壁に押しつけている。グリムは苦しそうに足掻いていた。
天使は口を開くとエネルギーを圧縮しはじめ、その口をグリムの顔のすぐ前まで近づけた。近距離からレーザービームを撃つつもりだ。
グリムが抜け出そうと体をよじるが、天使がさらに力を入れておさえつける。胸の骨が折れる音がして、グリムの口から血が噴き出た。
間にあわない。
「グリムウゥゥ!」
ボクは無意識に叫んでいた。
レーザービームが発射される刹那、グリムの右手がうごいた。鉤爪が天使の顎をボクシングのアッパーカットのように突き上げる。ビームを放とうとしていた口は閉ざされ、鉤爪の先が天使の両目から突き出ていた。
行き場をなくしたレーザービームのエネルギーは、「ボンッ!」という破裂音とともに、天使の頭を吹き飛ばした。
頭部をなくした天使の力がゆるみ、グリムが床に落ちた。ボクは必死になってかけよった。
「グリム! 大丈夫!」
「……ああ、大丈夫だ。なんてことない」
グリムは強がってそんなことをいっているが、あきらかに重傷だ。天使の顎に突き刺した右手はビームを受けたのだろう、ひどい火傷だった。胸の骨も折れている。内臓も傷ついているかもしれない。
グリムは苦しそうに、「ルキフグスを捕まえなければ……いくぞ」といって立ち上がろうとしたが、すぐに血を吐いて、その場にくずれおちた。
「無理だ! うごいちゃダメだ!」
そういうボクの手を、グリムはつかんだ。
「オレが、いかなくちゃならないんだ……たのむ……オレを、つれてってくれ」
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