16

 翌朝早く、ボク(とグリム)、ダインスレイフ、隠者、の四人は城にむけて出発した。

 隠者は案内役だった。城までの秘密の抜け道があるという。抜け道は、廃村のなかにぼつんとある枯れた井戸のなかにあった。井戸の底に降りて、隠者にしかわからないスイッチを押すと、隠し扉が開いた。

「この抜け道はルキフグスもしらない。万が一のときのためにおしえなかったのだ」隠者はいった。

 通路は人ひとりが通れるくらいの幅しかなく、当然、暗闇だった。隠者がランタンをもってボクたちを先導した。通路の奥から冷たい風が吹いてくる。しばらく進むとひろい下水路に出た。

 下水路をさらに進む。壁にとりつけられた鉄のはしごがあった。それをのぼる。格子状の鉄枠を上にもちあげると、そこは城内の調理場の床につながっていた。ボクたちが出てきたのは調理場の排水口だった。

 ひろい調理場だ。大きなレストランの厨房くらいあるだろう。

 調理人たちの姿はなかったが、食材や器具が放置されていて、調理の途中で調理人たちが消えたような状態だった。

 隠者はランタンの火を消し、作業台においた。

「ここから先はどこに侵略者どもがひそんでいるかわからぬ。気を引き締めていこう」と隠者。

 調理場のドアの隙間から廊下をのぞく。天使たちがうじゃうじゃいた。

「ここから先は隠れていくのは無理じゃな」ダインスレイフはそういうと、ドアを蹴破って、廊下に出た。

 天使たちは驚いたのか、こちらに視線をむけたまま石像のように固まっていた。

 そのときにはすでに、三匹の天使が肉片にされていた。

「キャアアアアア」

 天使たちの悲鳴のような咆哮が鼓膜に突き刺さる。幼児のように可愛らしい顔が裂け、おそろしい牙を剥き出しにしながら、天使たちは一斉に飛びかかってきた。

「隠者様! さがっててください!」ボクは叫ぶと、両手を鉤爪に変化させた。

 天使たちの攻撃のほとんどをダインスレイフが引き受けてくれた。ボクは、鉤爪と鍋蓋の盾を駆使して、自分と隠者におそいかかってくる天使だけをやっつけた。しかしそれだけでもボクには手一杯だった。

「ワッハハハハ!」

 と高らかな笑い声が城内に響く。ダインスレイフはたのしげに笑いながら、次から次へと天使たちを斬り捨てていった。

 以前、隠者がダインスレイフのことを〝かすみの剣士〟と称していた意味がわかった。

 ダインスレイフは防御の構えをとらない。攻撃あるのみだ。だから敵の攻撃をよけきれない場面もでてくる。しかし、ダインスレイフが攻撃を受けるその刹那、彼の体は煙となって散ってしまうのだ! そして煙がべつの場所にあつまると、ダインスレイフがあらわれ、ふたたび攻撃をつづける。

 まさに、霞の如く、だ。

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