13
「ここまでくるのにわざわざ険しい山道を登ってきたのか。それはご苦労なこったのぉ」ダインスレイフはボクらを憐れんだ。
近道がある、といってダインスレイフにつれてこかれたのは冥府の山の山腹にできた洞窟だった。松明を片手に洞窟の奥まですすむと頑丈そうな鉄の扉があらわれた。鉄扉には、いくつもの錠がかかっており、何本もの鎖で遮られていた。みるからに不穏な空気を漂わせている。
『ここは……』グリムも緊張しているようだ。
「ここは冥府の地下牢じゃ。悪夢の国でも最悪の罪人どもが投獄されとる」
「罪人! こ、ここを通るんですか」ボクは心配になった。
「近道じゃからな」
ダインスレイフはそういうと、腰の剣を抜いた。剣を大上段に構えると真っ向斬りに振り下ろして、錠やら鎖やらすべてを一刀両断にした。
「さあ、ゆくぞ。一応ワシが全部斬るつもりだが、もし斬り漏らしたら、自分の身は自分で守れ。そこまで面倒みんぞ」とダインスレイフは言い捨てた。
地下牢は迷路のように複雑な構造だったが、ダインスレイフは迷うことなくスタスタと進んでいった。彼の足は速く、ボクはついていくのに精一杯だった。
地下牢の壁には等間隔に松明がささっていたから真っ暗闇ではなかったが、それでも薄暗く視界がわるかった。気をぬくと、ダインスレイフの背中を見失って、はぐれてしまいそうだった。
それに、ひどい悪臭がする。汗、体臭、口臭、腐敗臭、糞尿、血などの臭いが混ざりあったような、とにかくひどい臭いだった。
突然、前方から獣のような咆哮がした。が、すぐに咆哮は途切れ、「ドサッ」となにかが落ちるような音がした。ダインスレイフのあとについて進んでみると、おぞましい肉片があたりを汚していた。おそらくダインスレイフがなにかを斬ったのだろう。
その後もおなじようなことが繰り返し起きた。ダインスレイフのあとには、あちこちに飛び散った肉片と体液が残された。原形をとどめていたとしても、たぶんこれはボクがみたこともない未知の生き物だろう。
地下牢は七階層まであった。ダインスレイフは各階をすみずみまで探索し、地下牢に潜むモノたちを斬ってまわった。その階層で斬るモノがなくなると、下の階層に降りて、またおなじことを繰り返した。
ダインスレイフが罪人を斬り漏らすことはなかった。ただボクは、地下牢を出るころにはダインスレイフの恐ろしさを身に染みて理解していた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます