10
崖の上に到達した。
目の前の監視塔はそれほど大きくはなく、海岸に立つ灯台をおもわせた。なかにはいると、塔の内側の壁に階段があり、上まで螺旋状につづいていた。
一番上までいくとこぢんまりとした部屋があった。四方の壁はガラス張りで東西南北が見わたせるようになっており、家具は机と椅子と本棚とチェストとだけで、ほかには望遠鏡が一台あった。おそらくこの監視部屋から悪夢の国の出入国者を監視しているのだろう。
カエルとタコが合体したような生き物が椅子に座り、机の上でなにやら書きものをしていた。
『フルート』グリムがボクの頭のなかでいった。たぶんあの生き物の名前だ。
「フルート」ボクは声に出した。カエルのような顔がこちらを向いた。フルートはボクの顔をしばらくみつめていた。そして慌てるようすもなく、「どちらさまでしょう?」といった。
「グリムです」
「はて? グリム様は存じあげておりますが、そのようなお顔でしたっけ?」
ボクはいままでのいきさつを説明した。
「なるほど。合点がいきました。だからグリム様と連絡がつかなかったのですね。いやはや、まさか計画9号にやられていたとは」
『ああ? なんか文句があるのか、フルート!』
ボクはグリムの台詞をそっくりそのまま真似していってやった。
「ああ? なんか文句があるのか、フルート!」
するとフルートは骨のない手足をビシッとのばして、
「失礼いたしました!」
と敬礼した。
「いつどのようにして計画9号が悪夢の国に侵入したか、報告せよ! それに王の居場所はどこだ! 父上はいまどこにいる!」
ボクは上官の威厳をもって言い放った。直立不動の軟体生物はよりいっそう背すじをのばした。
「報告いたします!」フルートは、悪夢の国への出国と入国を記した台帳を手にしながら、張りのある声を出した。「本日未明、計画9号が国境付近に出没したとの情報があり、先発隊が出撃し、交戦となりました。しかし先発隊劣勢との連絡があり、王は各領主とともに先発隊の加勢ため出撃。王たちが門を出た時点で防衛規則にのっとり閉門。銀の鍵で施錠し、防備をかためました。しかし……」
フルートは言い淀んだ。
「しかし、なんだ! つづけろ!」ボクは大声でいった。
「はい! しかし直後に裏門が開かれ、天使の軍勢が侵入。城は制圧されました」
『それは知ってる。見てきたからな』グリムはつぶやいた。『父上はこのことを知っているのか』
「父上はこのことを知っているのか」ボクは復唱した。
「いまの状況で伝令を出すことは不可能なためわかりません。たとえ知っていたとしても閉ざされた門を外から開けることができないため、王は国内に入ることはできません」
沈黙。グリムはなにか考えているようだ。そして、
『裏門が開かれたということは、だれかが天使たちを中に引き入れたということなのか』
ボクはグリムの言葉をそのままフルートにつたえる。フルートは言いにくそうに声をしぼり出した。
「は、はい。その通りです」
「つまり裏切り者がいると」
「はい」
「そいつは銀の鍵を管理してるヤツだな」
「……はい」
グリムはいきなり大声で怒鳴った。
『ルキフグスめ!』
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