6

 だいぶとおくまできた。たぶんもう安全だろう。

 ボクとグリムは、逃げた先にたまたまあった洞窟のなかにはいり、ひと息ついた。

 ボクはまだメソメソと泣いていた。

『いつまで泣いている』とグリムが頭のなかでいった。

「人を……殺してしまった……しかも、あんな小さな子を」

『バカいうな。アレは人間じゃない。アイツらはああいう姿で人をだますんだ。幼子おさなごの姿で人間を油断させる。お前もみただろ、アイツの本当の姿を』

 たしかに──口が裂け、牙を剥き出しにした恐ろしい姿が、いまも脳裏に焼きついている。

『それにヤラなけらばヤラれていたぞ。ココはそういう世界だ』

 グリムのいう通りなんだろう、きっと。

「家に帰りたい」ボクはつぶやいた。

『約束は守る。かならずお前を家に帰す。そのためにはお前もオレに協力してもらわないとならない』

「……協力するよ。ボクはなにをすればいい」ボクは涙を拭った。

『あの門を開ける』

 グリムの説明はこうだ。グリムが城にもどったとき、グリムの父──悪夢の国の王様の姿はなかったという。おそらく王様はいま国の外にいて、門が閉じているせいで悪夢の国に入れなくなっているとおもわれる。

 計画9号は、王様不在のときを見計らって悪夢の国に侵入し、なんらかの手段をつかって門を閉じたのだろう。

 しかし逆にいえばそれは、計画9号が悪夢の国の王様の力をそれほどおそれている、という証拠でもある。

「だったら王様がもどってくればすべて解決するってこと?」

『そうだ。それに門が開けばお前も人間界へ帰れる』

「わかった。でもどうすれば門を開けられるの」

『鍵だ。〝銀の鍵〟が必要だ』

「銀の鍵……その鍵はどこに?」

『わからない。いつもなら城の宝物庫に保管されてるんだが、オレがいったときにはなかった』

「じゃあ、これからどうするの」

『まずは西の監視塔へ行く』

「西の監視塔?」

『ああ。そこにいけば悪夢の国に〈だれ〉が〈いつ〉出入りしたかがわかる。そこで父上の行き先と、計画9号がどうやって侵入したかをしらべる』

「それじゃあさっそく西の監視塔へいこうよ」

 そのとき、グウゥゥゥ、とボクのお腹が鳴った。

『いや、その前に腹ごしらえだ。お前もオレも腹が空きすぎてる』

「そ、そうだね。お腹が空いた」ボクはみとめた。


 ボクとグリムは狩りをすることにした。グリムの力をつかえば造作のないことだったが、狩りの獲物はどれも両生類や深海魚に似たグロテスクな生き物ばかりで、ボクがかたくなに食べることを拒否したため、グリムは怒ってしまった。

「ごめん、グリム。わかった。食べるよ。でも火を通してくれ。人間は生肉は食べられないんだ」

『まったく手のかかる生き物だな、人間とは。生肉を食べられない動物なんて人間だけだろうに!』

 ボクはシュンとして小さくなった。

『それで。お前、火は起こせるのか?』

「……いいえ」

『だろうとおもったよ。しかたない。この近くに魔女が住んでいる。そこで火を借りるとしよう』

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