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 薄暗い森、奇妙な色かたちの木や草、そして巨大な門──鉄扉の彫刻をよくみてみると、魚と人間の混血種のような生き物や、顔の下半分にタコの足のような触手が無数に生えた巨人などが彫られていた。

 ボクはこわくてしかたなかった。じっと待っていることに耐えられなくなったボクは、グリムが飛んでいった方向へ歩きはじめた。森をぬけ、崖のはじっこに出ると、高い場所から一帯を見わたせた。ボクの視線の一直線上に黒い城がみえる。きっとあれがグリムがいっていた城だろう。

 城は小高い山の上にあり、何本もたっている尖塔の中央に天守がそびえ立っていた。

「あれは、なんだ?」

 上空から天守にむかって、白い光の群れが、雪が降りかかるように舞っていた。

 そのときだった──

 ひどい悪臭がボクの鼻を刺激した。背後に気配を感じて振り返るとそれら﹅﹅﹅はもうそこまでせまっていた。耳のない犬に似た頭部、ゴムのようにブヨブヨした皮膚、所々に生えた毛には汚物がついていて不潔だった。

 はじめてみる生き物だったが、(これが食屍鬼グールだ)と確信した。

 食屍鬼グールは、ボクからみえるだけでも三匹いた。三匹ともがボクのことをじっとみつめている。食屍鬼グールたちは前かがみの二足歩行でジリジリと距離をつめてきた。

(ボクを狩ろうとしてるんだ。ボクを食べようとしてるんだ)

 しかし食屍鬼グールたちの悪臭と汚さから、恐怖よりも不快感のほうがつよかった。

 ボクは後じさりしながら突破口をさがした。左から水が流れる音がきこえる。おそらく川がある。ボクは一目散に川へむかって走った。

 ボクのうごきにあわせて食屍鬼グールたちも走り出した。その走る姿さえ醜悪で気持ちわるい。ボクは、食屍鬼グールにさわられたくなくて、必死に走った。

 やはり川が流れていた。おもってたより流れがはやかったが、ボクは迷わず川に飛びこんだ。

 案の定、食屍鬼グールたちは川岸で立ち往生してウロウロしているだけだった。やはり水が苦手なのだ。でなければ、あんな不潔な身なりはしてないはずだ。

 ボクは体の力をぬいて、川の流れに身をまかせた。そのうち流れもゆるくなるだろう……なんて考えはあまかった。

 ボクはすぐに川に飛びこんだことを後悔した。

 川の流れはおだやかになるどころか、ますます激しくなっていった。そして川は途中で消えていた。

 滝だ!

 上を見上げてもテッペンがみえなかった、あの崖にある滝だ。ただですむはずがない!

 ボクは必死に泳いだが無意味だった。激流にさからうことはできず、ボクはなすすべなく滝壺へと落ちていった。

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