頂に挑む者
火水風地、四大属性の魔法を自由自在に使いこなすタラゼドは淡々と容赦なくその力を使いエルクリッドと彼女のアセスを試す。
その中でエルクリッドは自分のアセスの持つ特徴を改めて把握し、理解を深め、より適切な判断を見極めカードによる支援の有無や刹那を逃さぬように研ぎ澄ませていく。
そうしてアセス達にタラゼドの魔法を対応させる訓練をし始め夜明けとなった頃、エルクリッドはファイアードレイクのヒレイを召喚し引き続き訓練に臨む。
「我望むは静寂なる世界、冷厳なる氷雨は破邪の剣となりて汝を穿き万物を閉ざす……!」
飛行するヒレイの周囲に氷の剣がいくつも現れ、すかさずヒレイは白い炎を身体を回転させながら吐いて全て焼き尽くす。直後に影が現れそれが頭上に作られた巨大な岩なのを確認するとすぐに口内に炎を凝縮させ、火炎弾として吐きつけ命中させ一気に粉砕してみせた。
刹那、砕かれた破片がヒレイにまとわりつくように張り付き始め、引き剥がす間もなくヒレイを岩で包み込み球体へとタラゼドは閉じ込め動きを封じる。すぐにエルクリッドはカードを引き抜くが、次の瞬間に球体の隙間から白い炎が噴き出し熱波と共にヒレイは岩を吹き飛ばして自力で脱する。
(真化してからヒレイはかなり強くなった、でも……あたしの魔力もかなり使うから気をつけないと)
アセスの行動にはリスナーの魔力が使われるのは今更説明することではない。真化したアセスの維持や能力行使に伴う消耗はかなりのもの。
最も召喚してから決着まではそう長くはないので問題とは言えない、しかし、力が拮抗し長期戦となった時も考えるといかに消耗を抑えるかは重要であり、感覚的な慣れというのもバエルとの戦いまでにしっかり把握せねばならない。
ヒレイが口内に白い炎を蓄えタラゼドへ向け放ち、それをかざした手から発する水流で相殺させ水蒸気を起こしタラゼドが視界から消える。
当然それはエルクリッドにとっても使うカードを見られないという事でもあり、タラゼドが何を繰り出すのかわからないという事でもある。
だが迷う事なくエルクリッドはスペルガードのカードを握り潰してスペルブレイクで発動し、刹那にヒレイへ襲いかかる砂鉄の針の雨を防ぎ水蒸気を一瞬で気化させる程の熱を持つ大火球を完全に防ぎ止めた。
スペルガードの結界にヒビが走りながらもタラゼドの魔法を防いだ事を爆風の中でエルクリッドは確認しつつ、後ろへ押されそうになるのを前へと一歩踏み出しながら留まり次のカードを抜く。
「ツール使用ミスリックアーマー!」
白銀の鎧に炎の模様が走りながらヒレイへ装着され、自らスペルガードの結界を破り天へ舞うヒレイが昇る朝日を受け輝く。
(これは……あの時と同じ……)
その神々しい姿を見上げタラゼドはかつて見た姿を重ねた。激闘の中で天に舞い上がり朝日を受ける火竜の姿に、戦友の相棒を思い返しつつ笑みを零し両手を合わせ魔力を集約させ迎え撃つ。
「我に呼応せし事象よ、悠久と共に築き上げし流れを一つに束ね閃烈の魔弾となり光を射貫け……!」
赤、青、黄、緑の四色の光がタラゼドの詠唱と共に手の中で渦巻き、やがて白い光となると弓矢の形となり彼がそれを引いてヒレイに狙いを定めた。
四大属性全てを一つに合成した極めて高度な魔法であり、圧縮されたその威力はタラゼドの周囲に逆巻く魔力の風を見て察する事ができ、同時にそれをどう受けて立つかで先に待つ戦いの行く末を決めると。
(退いたら届かなくなる……あたしは、あたし達は、前に進むんだ……!)
決意と共にカード入れが赤い光を帯び、エルクリッドが引き抜くは赤きカード。凛とし真っ向勝負を挑まんとする姿勢にタラゼドもいつもの穏やかな笑みをエルクリッドに見せ、次の瞬間に鋭く目つきを変えて改めてヒレイに狙いを定めさらに魔力を集約させ威力を高めた。
「
翼を大きく広げながら陽光を受けるヒレイが漲る力を集約し、開いた口内に燻る白き炎が電撃を纏いながら光へ変わっていく。高まる力と力とが影響しあってか大気が震え大地が揺れ、次の瞬間にタラゼドは矢を放ちヒレイも白き威光を放つ。
刹那にぶつかり合う白き光が眩い閃光と共に周囲を真白一色に染め上げ、そして炸裂し消滅と共に荒れ狂う風が吹き荒れタラゼドは踏み留まれず後ろへ飛ばされ叩きつけられ、エルクリッドも同様に叩きつけられそうになるが咄嗟にカードを発動し飛ばされながらも急降下で駆けつけたヒレイと顔を合わせる。
「大丈夫か?」
「スペル発動ファイアブラインド……なんとか、ね」
炎の幕がエルクリッドと岩壁との間に作られ緩衝材となり、肉体への衝撃は和らげられた事でヒレイに返す言葉も快活にできた。が、一区切りついたという事に気が抜けてガクンと膝から崩れ落ちてしまい、両手をついてエルクリッドはどっと汗を流し息を切らす。
(流石に、もう限界……でも……)
魔力が底を尽きかけてる感覚を覚えながらヒレイをカードへ戻し、ゆっくり立ち上がりながらカード入れにしまってエルクリッドは深呼吸をする。
一方のタラゼドも身体を強く打ちつけながらも同様に汗を流しており、眼鏡を一度外し汚れを手巾で拭いてからかけ直し肩の力を抜き穏やかな表情を見せつつゆっくりとエルクリッドの方へと歩む。
「お見事ですね。わたくしができる事はこれで全て……あなたは最後までそれを成し遂げました」
「タラゼドさん……ありがとう、ございます」
満身創痍ながらも深々と頭を下げながら礼を述べ、頭を上げると満面の笑みをエルクリッドは見せてタラゼドも安堵し呼吸を整える。
タラゼドの魔法に対してエルクリッドはあらゆる手を使い対応し、アセスもまたそれらに対し避けるか防ぐか、攻撃で迎え撃つか、素早く対応してくれた。後はこれを踏まえて実戦で、バエルとの戦いに反映できるかどうかだけだ。
「あたし、勝てる……のかまだわかりません。やっぱあいつ強いなって思うし……だからこそ越えたい、越えなきゃって思うんですけどね」
改めてわかる強さがある。同時にそれは彼との距離が縮んだからこそのものである事もまた自覚でき、不安もまた大きくなる。
だがもう後戻りできないのも自覚しており、それでも不安を感じるエルクリッドが俯くとタラゼドはそっと彼女の頭に手を置いて撫でてやり、顔を上げるといつものように微笑む。
「最初に出会った時からあなたはまっすぐで、揺るがぬものがありました。そして旅の中で多くを経験し成長したのを今回わたくしは改めて感じ、クロスがあなたを選んだ事も……今ならよくわかります」
撫でる手を引いてタラゼドはエルクリッドの右手を取り、そっと手を重ねその温もりが彼女へと伝わる。
そうだ、とエルクリッドはタラゼドがずっと見守り、見届けてくれたのを思い返す。様々な理由や事情も抱えながらも信じてくれた人の思い、そして彼だけでなく憧れ信じ続けるノヴァや、切磋琢磨してきたシェダやリオの事も思うと、不安は消え表情に明るさが戻った。
「では戻って朝食にしましょうか。希望はありますか?」
「何でもいいですよ! タラゼドさんの料理は何でも美味しいから!」
「ふふっ、では魔力回復と滋養強壮に良いものを作りましょうか」
指を鳴らして魔法陣を作り出し、その光の中で穏やかな会話をして二人はその場から姿を消す。
頂に挑む者はその準備を終える。待ち望み続けた舞台へ、頂に立つ者へ、その先へと進む為に。
NEXT……
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