【総受けコーヒー】
――総受け。それは全てを受け入れるもの。
(白き濁流が漆黒の黒を汚す)
――総受け。それは受け止め、混ざること。
(貴方様は更に、この白き甘さにより、染まっていくのですね)
――総受け。それは混ざり合い、全てを取り込むこと。
(ああ――なんて尊い。これにより貴方様の原型がなくなったとしても)
それら全てを混ぜ合わせ、綱宮泡は微笑む。
(貴方様は――ここにいるのですね)
苦いコーヒーを飲むことができない綱宮泡は、そうしてやっとこさコーヒーに口をつける。
「綺麗な人ですね先輩」
「常連さんよ。いつも所作が綺麗なのよね。惚れ惚れしちゃう」
遠巻きで喫茶店の店員2人は、綱宮泡を眺めていた。
「でも、最初すっごく苦い表情してましたよ」
「ブラックで飲んでたものね」
(コーヒー様。貴方は孤高ではなかったのですね。カップリングをこうも受け入れてくれるとは、総受けの才がある!)
初めてのブラックコーヒー挑戦。綱宮泡は苦すぎて失敗した。
だが、それでもよいのだ。
(こうして、新たなカップリングが発見された。でもコーヒー様にお似合いの相手はきっともっといらっしゃる!)
綱宮泡は更に、ハチミツを投入。
「あ、まだ苦かったのかな?」
「らしいわね。全部入れたわよ。新しいハチミツ準備しなさい」
(金色の雨に飲まれても、コーヒー様はお変わりないようで――)
まだ、苦い。
「新しいハチミツ入りますか?」
「……いえ、いりませんわ」
「そうでしたか、お邪魔致しました」
「お気遣いありがとうございます」
(……コーヒー様。貴方様の推し活はまだ私には早かったようですわ)
綱宮泡は悔しさを感じていた。
コーヒーの漆黒。それはまだ、綱宮泡には到底飲み干せるようなものではなかったのだ。
(ですが、こうして全てを受け入れてくれたコーヒー様に向け、私は貴方様を【総受け】と認定致しますわ)
(最初あった孤高の漆黒から一変し、変わって行く貴方様は――素晴らしい)
(それに敬意を評して――)
「頂きます」
ゆったりとコーヒーに口を付ける。
未だに残る漆黒が、確かに残ったコーヒーの存在を感じさせる。
それに混ざり、3つの甘さがそれぞれコーヒーに寄り添い合う。
(これもまた、味!今私は新たな知見を得ましたわ)
新たな体験に感謝し、全てを優雅に飲み干し店を出る。
「ご馳走様でした」
店員に感謝を残し、綱宮泡は店を去った。
「可愛い子でしたね先輩!」
「あんたが笑顔も負けてないわよ」
「へ?」
「……なんでもない」
(――尊い)
全ては推しのため、綱宮泡は2人のやり取りのために店の外でそれを聞き、笑みを浮かべた。
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