第8話 醜い魔物


 突如ぺしゃんこの肉塊になってしまった剣士。仲間達はぽかんとして固まっていたが、女エルフの弓兵がいの一番に動きだす。

 弓兵は強い殺意と禍々しい魔力を放つトレーネを害敵と判断した。


「あんたの仕業──」


 パンッと破裂音がして、矢を弓に番えようとしていた弓兵の下腹部が弾け飛ぶ。臓物が四散し、はらわたが白いローブの女僧侶の頭に落ちる。


「ひっ、きゃああ──」


 僧侶の悲鳴が途絶えた。無理もない、頭と四肢が捩じ切れれば喋ることも動くことも出来なくなるのだから。


「……おいおいおい、何だヨ! ふざけんなっ!!」


 一人残された盗賊シーフの男はトレーネに背中を向けて一目散に逃げ出す……が、その体を業火が包む。


「あつい、あつい、あついっ!!」


 床の上でのたうち回る盗賊の体はやがて消し炭となり、ぼろぼろと崩れた。



 トレーネは足元の肉片を蹴飛ばしながらソールの亡骸へ駆け寄る。


「ソール様、ごめんなさいごめんなさい! ぼくがもっと早く気がついていたらこんなことにならなかったのに! うわーんっ!!」


 恩人であり師であり母であった者の体にすがりついて少年はおいおいと泣く。


「このは卑怯だっ! きっとソール様が魔物にもお優しいだと知っていて襲ったんだ! くそ、くそ……こいつらは見た目だけでなく心もなんて醜いんだ! ちくしょう、ちくしょーっ!! ううっ、ぐええっ、」


 トレーネは叫びながら嘔吐する。

 自分と同じような形をした者達が、ソールを殺した。それはトレーネにとってあまりにも耐え難いことであった。

 だから……。


「……殺さないと、醜い魔物は根絶させないと。そうじゃないとソール様のようなお優しい人が割を食うことになるじゃないか。同じ魔物のぼくがやらなきゃ、それこそがぼくの使命だ」


 トレーネはその夜、悲壮な決意を固めるのだった。

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