スー
青山 翠雲
サイレン ス-
第1話:沈黙は金なり
天は人に二物を与えないという。しかし、ごく普通の27歳の男である私には、ある秘密の特徴と特技があった。それは、超絶にクサいオナラをすることと、完璧な無音でのスカしテクであった。社会で生存していく上での必要条件であり、Gifted Talentあればこその十分条件であった。
会社での一日はこんな感じだ。とにかく、クサいにもかかわらず、呼吸するかのようにオナラが出る。席に一人の時は絶妙な肛門括約筋のアジャスト機能により、スーッと平然と出す。回りに人がいる時は、プリンターの前が私の放屁場だ。あまりに頻回で出るために、印刷ボタンを押す間もなく催すことがある。そんな時はプリンターの前まで行き、「アレッ!?印刷されないなぁ」なんて言いながら一発出し、腹圧を下げてから、再度自席に戻って印刷ボタンを押し、今度は紙を取りながら、当然もう一発出す。昼休みに30階にある社員食堂での食後に乗り込んだエレベーターでは、「遂に人を殺めてしまったか?」と思ったが、全員、禁煙者だったが、28階の喫煙フロアで皆降りた。当然、自分もクサいなぁー、みたいな顔をしながら降りるから、自分が犯人とはバレていない。
ある日、唐突に
「ねぇ、なんかさ、フロアがクサいよね。特にプリンター付近。」
「そう、各席の島に必ずクサい人が点在しとんねん。何人かは分かるけど、全員は把握できてない。一人サイレンサー付きのブッパがおるけん。」
「私に妙案があるわ。炙り出したるで。」
翌週、部長から、席のフリーアドレス制、ペーパーレス化推進、空気清浄機導入の通告があった。席はこれにより事実上、女性陣と男性陣とに分かれた。
「これで女性陣の<ハビタブルゾーン>と男性陣の<住めるゾーン>に分かれたわ。まぁ、本当は男性陣のところは、Smell Zoneやけどな。」
「ギャハハハ!翔子、それ天才やわ!」
足のクサい係長が靴を脱ぐたび、口のクサい主任が喋るたび、Smell Zoneに置かれた空気清浄機はニオイを検知し、唸りを上げてフル稼働。その隙に自分はもはや自席でスーッとブッパする。当然、私は頭を振りながら被害者ヅラをする。
翔子から社内メールが来た。「可哀そう。今度、二人で食事でもいかがですか?」
果たして、この誘いを受けるべきか?スーッとスカしながら悩んだ。
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