第6話決着。

カンッ!と2つの汚い剣技がぶつかり合った音が鳴り響いた。これが本当の開戦のコングだ。さっきまでのはただのスピーチにすぎない。


「アハはっははハはハッハばっ」


「炎よ!」


 普段は全くと言っていいほど使わない炎魔法がゼノスの焦りを象徴するかのように光ら輝く。


「アハっ!すげーな!」タッチ!


(また自ら当たりにいくだと、…手応えもなしか。)


「これが炎かそうか」


 目に見えてハイな状態でそう呟くと、太陽の代わりにもなるんじゃないかってぐらい大きい炎の塊を三つ四つと瞬時にポンポン出してきた。

 

「オラ!オラ!ッオラ!避けろ避けろ!」


雨なんて関係なしなレベルで飛んでくる炎を、魔法で応戦していく。攻撃どころか考える隙さえも与えない程の魔法の数をなんとか捌き切った。


「アハハひっ!やっぱ俺全部できるんじゃねぇか?なぁ!?ようやく世界がついてきたよ!」


 (我に匹敵するほどの風と雷だけでなく、炎までも我と…、いや炎に至っては我以上の。なぜこんなにも急に魔法を。)


 分析も作戦も闘志も何もなかった。あるのは一つ、ただ困惑している自分だけだ。


 完全に2人の立場が逆になっていた。


「あぁ、どした?何ボケっとしてんだよ?それともわかったのか?もう無理だってよ」


 ゼノスはこんなわかりやすい挑発にも対抗するために鼻で笑って反応した。全然効いてねぇよ、そう相手にわからせるために。


「貴様こそ、ただの一撃当てただけでよくそこまで舞い上がれるな?」


「何冷静ぶってんだよ?ほんっと素直に言えよなー、まったくよぉ。油断してたら負けましたってさ」


 この笑い声はとても英雄のものとは思えない。声だけじゃない。一つ一つがゼノスの癪に触ってくる。人の癪に触ってくる。普通ならこんな声出せないだろう。


 雷鳴が怒り狂ったように轟く。それに来いよと言うように、効果音のような創られた雷鳴が轟く。


「フンッ!」


「危なっ、オラっ!」


ゼノスから放たれる魔法をまったく同じ魔法で打ち消していく。ゼノスの華麗とはもう言えない剣技をさらに歪な剣技で弾き返した。


 本来の剣技ならゼノスの圧勝のはずなのに、今は同レベルで互角といったところだった。


「ヂッ!」ブン!


「刃先から!?。ヒッヒッハッならさー!俺ももできるよな!」


ゼノスの槍先から竜巻が槍を覆ったことを、即座に自分流のやり方で自分の物に変えていった。

 

 (真似をしようと我の方が上だ!このまま押し切りそのまま串刺しにしてやろう!我が十字架の重さを、)


 グラッ


 ゼノスの体制が崩れた。肩に何か重たいものを乗せたように前屈みになる。


 トン。と感じたのは数センチにもいたらない雨粒だった。とるに足らない、一粒程度、あってもなくても変わらない。他の物との大差もない。だがそれは次々に降ってくる。重く降ってくる。


 気づくと雨粒は集まり、一つ一つが野球ボールほどの大きさになっていた。空中での体制を崩すだけならこれだけで十分だった。


「貴様!また真似を」


 これもゼノスの雨から得たもの。すでにゼノスだけのものではなくなっていた。


「アハハはははハ!」

 

 (これは避けれッ!)バァン!!!!!!!と剣に纏っていた竜巻は振り翳された剣を合図に竜の如く暴れまわり、ゼノスの身体を飲み込んだ。ゼノスは気がつくと地面に体を倒していた。


 全身の骨が痛む。腕を少し動かそうとしただけで身体の全てからSOSが伝わってくる。


 だから鎧は脱ぎ捨てることにした。すでに役割を終えた鎧には感謝の気持ちを心でしっかりと述べてた。


 (ここまで我と来てくれたこと、感謝する)


「ーーふぅぅ」


呼吸するだけで骨がポロポロと砕けていく。ここまでならないと冷静になれなかった自分には、ため息しか出てこなかった。


(ゼノスよ。貴様は何の為に戦ってきた?)


 愚問だ。


 シュン!!「あ!?」


ここに来てようやく、戦士ゼノスが到着した。


「我が主人のため!我は貴様を殺さなければならんのだ!」


 死ぬ覚悟だとか、プライドのためだとか、そんなものではなかったはずだ。最初の、始まりは主人へのたった一つ忠義。


「だったら速く殺してみッ!!ガハッ!」


 圧倒的スピードと戦慄された槍捌きにより魔法による放置網が意味をなさなかった。頭を殴れ、そのまま槍を腹に突き立てられた。


「あはははは!!」


「氷よ」


ゼノスは吹き飛ばした相手に追撃をかけにいく手段として雨を氷にすることにした。周りの温度は下がっていき、奴についている水を凍らせ、動きを鈍くするためだ。


(奴の一番の強みは速さだ。冷静になれば魔法はそれほどまでの脅威ではない)


 どれだけ多くの魔法を使われようと、自分に向かってくるもの以外は意味をなさない。この世界では魔法は強みではなく、前提なのだ。


(奴はハイになっておる。だから絡めても何もない。ならばいける。冷静に、殺すことができる)


「あははは!オラってよ!」


 なんの考えもない、ただ子供がはしゃいでるかのような上からくる攻撃をゼノスは軽々避けて、距離を詰めていく。


(この一撃で決める!)

 

 今度こその会心の一撃で仕留めきる。いくら英雄の体といえど、この一撃を喰らえば無傷ではいられない。


(見えるぞ!我には奴のすべてが見える!)


「あははひ!意味ねーぞ!」


(その油断こそが命取り。我はそれを学んだ。我の失敗があったから今の我がいる。だから勝つのだ!)


「ああああああああ!!」


体の痛みを喜び、会心の一撃を振りかざす。ことができなかった。


(な、に…)


 目の前から、瞬きの間に奴は消えていた。代わりに周りには檻のような物を作ろうと岩がなっていた。


(まさか!)


シュン!バッ!


 ゼノスは上から猛スピードでくる、その刃により首を斬られた。


(まさか、ハイになっていることも演技とは…)


 初めから勝ち方は決めていた。そこに至るまでの絵を描いていた。上からスピード勝負で首を斬る。魔法も何もかもこの絵のためだけに。


(けどマジでハイになっててヤバかったー。まあ気持ちよかったからいいか)


 頭を殴られた時にようやく自我が戻ってきた。感覚にしてみれば酔っ払ってる時に近い。


(我は、油断したその時に負けていた…、主人よ、どうか。このゼノスを、)


ゼノスが最後に思ったことは、走馬灯と後悔だけだった。

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白の英雄譚 @Higasinoten

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