SS『夜明けのぼくらは』
水野スイ
STAGE1: リコの場合
今日もセフレを探して家を出ていく。
snsで繋がった適当な顔の良い男と待ち合わせをしてホテルへ行く。
毎週土曜日の夜21:00、それがここ最近のリコの日課になっていた。
リコが化粧をしていると、携帯の通知音が鳴った。
リコの彼氏、フミヤからだった。
『昨日の写真送って無かったよね、これカメラで撮った綺麗な写真だよ。
写真編集してみたんだけどどうかな』
「あ、あたしブスじゃん。だから一眼レフだと肌が汚く見えるから嫌って言ったのに」
リコはため息をつきながら、パフ片手に『ありがとう!最高の写真!』と送り付けた。
フミヤとリコは数か月前に大学で知り合った。
なんとなく入った写真同好会で、とにかくフミヤはしつこかった。
メッセージは頻繁に送ってくるし、毎晩『おやすみ』を要求される。
しまいにはリコを自分の母親に似てる、とまで言い出す。
とんだマザコン野郎だが、リコにはそれがどこか可愛く見えていた。
『次いつ会える?今度は綺麗な朝日でも見に行こうよ。どこか遠くの方にでもさ』
そんな通知が見えたとき、リコは急いでスマホの電源を切った。
垢ぬけない童貞が、と思った。
化粧を終えると、髪の毛を束にして結ぶ。
少しうなじが見えるようにして、派手なイヤリングをつける。
男は揺れるのが好きだから、あえて耳飾りのを選んだ。
ピアスは怖くてまだ開けられない。
母親は仕事で家を空けている。娘の夜遊びはよく分かっている。
リコは母親の事など気にもせず、20:30ごろ家を出ていった。
リコは歌舞伎町をピンヒールで歩きながら、指定のホテルを探している。
短いスカートに寄って来る男たちを撥ね退ける。
ホテル街に入ると、揺れるイヤリングをちらつかせる同年代の女性たちが立っている。リコはその女性たちを横目に、視線をそらす。
「スターライトホテル…ここか」
指定のホテルは、大きな星のネオンが目立つホテルだった。
中へ入ると、陽気なジャズが流れていた。
ミラーボールが寂しげに回り、
永遠に枯れない観葉植物が出迎える。
この場所の、普遍さを表すよう。
受付に行くと、顔の見えないしゃがれた声の女性が一声を発した。
「タクヤかい?アンタ」
リコは、なんのことかと一瞬思ったが、聞き覚えのある声だと思った。
snsのダイレクトメッセージ、やりとりしていた顔も知らない男の名前がある。
タクヤ。
「はい、タクヤ…です」
リコがそう言うと、女性はゆっくりと口を開いた。
「…507」
部屋の前へ行き、ノックをする。
すると扉が開き、ごつごつしている手がおいで、とささやいた。
その時、ちょうど携帯の通知音が鳴った。
フミヤだろうか、母親だろうか…リコはそんなことどうでもよかった。
ゆっくりと扉の中へ入った。
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