カッコウ

スオミスミオ✍

カッコウ

 ――わたしは死に場所も選べない臆病者なのか。

 と、カッコウは言った。

普段、美しく見えたカッコウのその横顔は、雛にとってとても幼く見えた。

「お父さま、鳴いてくださいまし。わたくしと姉が夫と子を持ち、成人したら大人のそれは立派な声が出ましょう。その時に、共にわたくしと鳴いてくださいまし」

 雛娘の木枯らしのようなその声も、カッコウには今聞こえぬ。

 ――寄るな。この無様な顔を見るな。

 カッコウは悲しみと憎しみにいたむ羽を、震わせながら拒否した。

「お父さま、わたくしが立派な。それは皆が羽を広げる卵を生んでみせましょう」

 雛娘は一言、勇気を振り絞って鳴いてみせた。

しかしその鳴き声はカッコウの想う美しい鳴き声ではなかった。

 ――あゝすまぬ。お前を美しく育てられずすまぬ。己は美しいが故に、お前たちを共に連れてゆけないことを。

 カッコウは嘆き、雛娘よりも一層、それは春の地の匂いを喜ばせるように美しく鳴いた。

悲しくもその鳴き声に雛娘は、呼ぶ事さえもためらわれた。父を呼ぶ声をためらわすまでに、カッコウのその声は美しいものだった。

 ――わたしは西へゆく。わたしの、生まれ育った巣へは戻れぬ。しかし西へ、生まれた土地へ少しでも近くへゆくのだ。

 カッコウは大きく身体を震わせると、音も立てず羽を広げ告げる風のまま飛び立った。その姿もまた、美しかった。

しかしその飛び立った先は北であり、雛娘はもう一度声を出そうとしたが止めた。




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カッコウ スオミスミオ✍ @mizumachi

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