お邪魔します♪︎

「それじゃ、私とサーシャちゃんで出雲いずも君送ってくわね!」



 色々と作戦会議をした後、陽が落ち始め外が暗くなってきた頃。洗濯していた僕の服もしっかりと乾き、ようやく帰れる状態が整ったのだが……


 『暗くなってきたし、一人で帰るのは危なくない?』というルナさんの言葉でもうひと悶着のだ。


 誰が僕を家まで送っていくか……という問題である。


 『全員で行ったら?』とか『お店を留守にするのはダメでしょ』とか『店長権限です!』とか『せめて二人で!』とか言い合い、盛り上がり……



 結局ジャンケンで決めることとなり、そうして勝ち残ったのが輝夜姫かぐやさんとサーシャさんだったのだ。


 サーシャさんのクールぶりながらのガッツポーズ……初めて見た……。



「それじゃ出雲いずもくん、また明日ね?」


「ごめんね出雲いずも君……私が送って

いってあげられなくて……」


「子猫はうちで預かってるから、いつでも会いに来てね?」


「サーシャちゃん……オオカミ・・・・にならないでね?」


「何言ってるの? オオカミじゃなくてネコじゃない」


「全然伝わってない……出雲いずも君、くれぐれも気を付けてね!」


「き、気を付けます……?」



 なぜか鬼気迫るような気迫のサフィアさんに気圧されつつ、僕はそう答えるのが精一杯だった。


 ま、まぁ外も暗いし……学校でも不審者がどうこうって話を聞くから、気を付けないと……。



輝夜姫かぐやさんとサーシャさんがいてくれるなら安心だけど……」


「そのサーシャが一番危ないというか───」


「何? ケンカ売ってる?」


「そんなつもりはないけど!」


「はいはい……もう私達だけで行こっか」


「ちょっ、待ちなさい!」



 言い合うサーシャさんとサフィアさんに呆れ気味の輝夜姫かぐやさんが、そう言いながら僕の手を引く。


 それを見たサーシャさんは慌てて僕のもう片方の手を取り、結局僕は両手をそれぞれ繋いで帰ることになったのだった。



        ♢♢♢♢



「こんなに遅くなると、ご両親は心配してるかしら」


「実は、今日はお父さんもお母さんも帰りが遅くて───あっ」



 薄暗い道を二人に手を引かれながら歩く僕は、何気ない輝夜姫かぐやさんの言葉にハッと思い出す。



「どうかしたの?」


「そういえば、今日は晩ご飯が用意できないから何か買ってくるように言われてるんだった……」


「あら、それは大変じゃない」


「ご両親ともそんなに忙しいの?」


「うん……お父さんもお母さんもテレビのお仕事とかしてるから、スケジュールが大変なんだって」


「二人とも芸能人? すごい……」


「……出雲いずもが美形な理由が分かったわ……」


「お母さんは音楽家ですけど、テレビとかにもよく出演するとかで……」


「へぇ……ご両親ともすごいのね」


「それより夕飯はどうするのよ? 出雲いずも連れてファミレスでも行く?」


「お姉さんとファミレス……」


「それもいいけど、服装がこれ・・だしねぇ……変に注目集めそうじゃない」


「ぁうっ……」



 『お姉さんたちと一緒にご飯が食べられるかも』とちょっと期待してしまった僕は、輝夜姫かぐやさんのあまり乗り気ではない言葉を聞いて肩を落とす。


 でも確かに、僕もメイド服を着たらお姉さんたちの前だけでも恥ずかしかったのだ。もっと人が大勢いる所ではお姉さんたちも恥ずかしいのかもしれない。


 うぅ……でも残念だなぁ……



「まぁでも、他にも案があって……」



 何かを思い付いたらしい輝夜姫かぐやさんが、僕に聞こえないようにサーシャさんへと耳打ちする。


 初めは怪訝な表情を浮かべていたサーシャさんも、ハッとしたように目を見開く。そして、僕へと視線を向けてニコリと微笑んだ。



「ま、一旦家に帰りましょ? 夕飯のことはそれから考えればいいわ」


「……? わ、分かりました……」



 どうしてサーシャさんはいきなり笑顔になったんだろう……。いや、それよりも……何か企んでるっぽい輝夜姫かぐやさんの方が心配だ。


 お姉さんたちの中では、仕事はできるけど状況をひっかき回すのが得意らしいから、輝夜姫かぐやさん……



 一抹の不安を胸に、僕はおとなしく家に向かうのだった。









「ここが出雲いずも君の家?」


「めちゃくちゃ大きいじゃない……」



 それから少しして、僕たち三人はようやく家に到着した。結局、輝夜姫かぐやさんのとは何なのだろう……分からないまま家に到着してしまったのだ。


 当の本人たちはというと、家の大きさに驚いたのだろうか。感嘆の声を漏らしながら家を見上げている。



「あの、ここまで送ってくれてありがとうございました……それと、色々と迷惑かけてすみません」


「ううん、いいのよ。出雲いずも君があの子を助けてくれて嬉しかったし、さすがに暗い中を小学生の子に一人で帰らせるわけにもいかないしね」


「ありがとうございます……では輝夜姫かぐやさんとサーシャさんも気を付けて───」


「じゃ、ちょっとお邪魔するわね」


「っ!?」



 『気を付けて帰ってください』と言いかけ、それを遮るように口を挟んだサーシャさんは、なんと僕が玄関に入ると同時に一緒に入ってきたのだ……!



「えっ、な、なんで……!?」


出雲いずも、今日は夕飯ないんでしょ? しかもご両親も遅いって言うし……だから私達で作ってあげようと思って」



 サーシャさんの言葉にハッとした僕が輝夜姫かぐやさんへと視線を向けると……


 彼女もまた、にこやかな笑顔で家に入り、後ろ手に鍵をかけるところだった。



 『輝夜姫かぐやさんとサーシャさんで夕飯を作る』……これが輝夜姫かぐやさんの案か……!



「さ、さすがにそこまでは……!」


「もちろん、絶対って言うつもりはないけど……」


「でも私も料理得意だし。絶対に美味しい自信はあるわよ? ふふ、今だけはあなたのメイドになってあげる……ね、ご主人様・・・・?」


「っ~~!」



 髪を結び直しながらウィンクするサーシャさんにそう呼ばれ、ブワッと顔が熱くなるのが分かる。


 脳裏に浮かぶ、メイド姿で色々と世話を焼いてくれるサーシャさんの姿……嬉しいやら恥ずかしいやら、とにかくいてもたってもいられずに『わぁぁぁぁっ!』ってしたくなる感覚───



「───お、お願いします……」



 少しでも期待してしまった僕には、他の選択肢はなかった。

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