これが本当のネコカフェ……!?

「っっ~~///」


「わぁっ……!」


「えっ、めちゃくちゃ似合ってない?」


「はぁぁ、ちょー可愛い……♡」



 お風呂から戻ってきた僕の姿を見たお姉さんたちの感想は、皆こんな感じだった……。


 結局あのあと、僕は断りきれずにサーシャさんとエミリーさんの二人にメイド服を着せられ、『せっかくだから』と謎の理由で目元に軽くメイクまで入れられたのだ。


 あれほど間近でお姉さんたちに見つめられたことにドキドキし、鏡に映る自分が何処からどう見ても女の子なことにドキドキし。


 さらには目の前で着替えるサーシャさんとエミリーさんの身体にドキドキし……


 そして今、他のお姉さんたち全員に、女の子の格好をした自分を見られてゾクゾクしている。



 あぁ、なんかもう……一周回って楽しくなってきたかもしれない(錯乱)



 そんな中、人一倍キラキラした目で見つめてくる人物が一人。僕が着ているメイド服を貸してくれた張本人のルナさんである。



出雲いずも君着てくれたんだ~♪︎ すっごく似合ってるよ! えへへ……お揃いだね♪︎」


「ぁうっ……ありがとうございます……」



 花が咲いたような笑顔を浮かべ、ピンと上に伸ばした尻尾の先を揺らしながら近付いてくるルナさんに、僕はそう返すのが精一杯だ。


 いや、やっぱり楽しくない……恥ずかしい方が強い……。


 僕男の子なのに、お姉さんと同じ服着て、『お揃いだね』って、そんなの……うぅぅぅぅぅっ!


 でも、なんだろう。この、胸がキュッとして心の奥から涌き出てくるような感情は……!



「ねー、ところで出雲いずも君」


「な、なんですか……?」


「……履いてくれた・・・・・・?」


「っ!?」



 ルナさんのたったそれだけの言葉に、全てを察した僕は顔がブワッと熱くなる。『履いてくれた?』とは、間違いなくあのパンツのことだ……!



「えーっと、その……良ければスカート捲って見てもいい……?」


「ひっ……!? だ、ダメに決まってるじゃないですか……!」



 顔の前で両手の指を合わせてもじもじしつつ顔を赤らめながら可愛らしく、それでいてとんでもないセクハラをかますルナさんに、ほんのちょっとの恐怖と得体の知れない興奮を覚える。


 さすがにこんなのを見られるわけには……と思った僕は、無意識のうちに足が内股になり、両手でスカートの裾を押さえるような体勢となっていたようだった。



出雲いずも、狙ってやってる? その仕草余計にあれ・・なんだけど?」


「やっぱり素質・・があったのね……」


「間違いなく誘ってる。じゃないと、肉食の私達の前でこんな美味しそうな・・・・・・格好するはずがない」


「おー、その格好もかなり可愛いと思うぞ!」


「あっ、ぅっ……」



 女の子の格好をしたままこんなにたくさんのお姉さん達に囲まれて……すごく恥ずかしいのに、どこか嬉しいような……。


 でもお姉さん達に、なんだか目が怖いよ……?



「まだ服が乾いてないからごめんね~♪︎ しばらく女の子のままでいて?」


出雲いずも、せっかくだから写真撮らない?」


「じゃあ私はお菓子とか食べさせてあげたいなぁ……♪︎」


「私は膝に乗せたい。ぎゅってして匂い嗅ぎたい」


「えっ、えっ?」



 にこやかな笑顔を見せたエミリーさんを皮切りに、スマホを片手に構えたサーシャさんやお菓子を用意したルナさんが、じわじわと僕へと迫ってくる。


 そして、抵抗する間もなくリリィさんに捕獲され、彼女の大きな身体にすっぽりと埋められることになるのだった。



        ♢♢♢♢



出雲いずも君、あーん♡」


「あっ……んっ」


「わぁ、食べた♡ 可愛い~♡」


「ん~……私達と同じ匂いがする……♡」


「サーシャちゃんばっかり撫でるのずるいよ、私も撫でたい♡」


「わっ、ぅっ、サフィアさん……!」


「デレデレしちゃって……私以外に撫でられるのもそんなに良いわけ?」


「ぁっ……! ル、ルナさん……! どさくさに紛れてスカート捲ろうとしないでください!」


「ルナ、あんたセクハラおやじみたいなことやめてくれる?」


「ごめんって! なんだか誘われてるみたいだったからつい……!」


「スカートの中に誘われるってなんなのよ……」



 それからしばらく、僕はリリィさんの膝の上で抱き締められたまま匂いを嗅がれ、サーシャさんやサフィアさんに撫で回され、ルナさんお菓子で餌付けされる時間を過ごしていた。


 あっ……これが普通のネコカフェの猫の気持ちか……! 


 猫側の気持ちになれるカフェ……これが本当のネコカフェ……!?(混乱中)



 そんな風に過ごすこと約一時間。お店の玄関が開いた音が聞こえ、お姉さん達全員の耳がピクッと反応する。


 バタバタとした足音は真っ直ぐこちらへと向かってきて、まるで『一刻も早く伝えたい』と気持ちが急いているようだ。



 その直後、バーン! と開いたドアから現れたのは、小さな猫用のケースを両手で抱えた、メイド服に一枚目上着を羽織っただけの輝夜姫かぐやさんであった。



「皆お待たせ! 子猫ちゃん無事だったよ!」



 美しい黒髪を振り乱し、少し上気した頬に満面の笑みを浮かべた彼女の第一声は、あの子猫の無事を伝えるものだった。



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