果実の片割れ
詩守 ルイ
第1話プロローグ:夢の残響と果実の記憶
霧深き王国リュミエールの北端、図書塔の最上階。
魔法学徒ルイは、誰にも干渉されないその場所を“聖域”と呼び、日々を妄想と記録に費やしていた。彼の妄想は、現実よりも鮮やかで、残酷で、優しかった。夢の中には、いつも白い衣をまとった少女が現れる。鼻歌を歌いながら窓辺に座るその姿は、彼の記憶に焼き付いて離れない。彼女はもうこの世界にはいないはずだった。
それでも、彼の心の中では、まだ生きていた。
「君がいない世界なんて、意味がない」
切り分けた果実の片割れのように、彼の心は空虚だった。雨が止まない限り、彼は彼女を忘れられない。彼女の声、笑顔、ふとした仕草が、記憶の奥で何度も再生される。彼はそれを“残響”と呼んだ。
「……あの日の雨は、まだ止まっていない」
彼の妄想は、現実と交差する。彼女がいた日々は、苦くて甘い果実のようだった。それを失った今、彼はただ静かに語り始める。これは、彼女と出会った春の日から始まる、喪失と救済の物語。
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