記憶の中の人々

 気づけば、その人影に向かって走り出していた。


 遠すぎて、影しか見えないけれど、知っている。


 小さい頃から知っている。


 スタスタとしたメリハリのある歩き方、女性にしては高い身長、知っている。


 もしかしたら、親父のことも知っているかもしれない。


 近所の八百屋を営んでいた、あの人。


 後ろからリズの声が聞こえる。


 でも、何を言っているかはさっぱり聞こえなかった。


 ただ、あの人に声が届く距離まで、ひたすらに走った。


「アイラさん!」


 彼女は振り向いた。


「あんたは?だれだい?」


 声を聞いた時、俺のもしかしたらは確信に変わった。


「俺!カインだよ!」


 俺はアイラさんに抱きついた。


「カイン!?嘘でしょうあんた、そんなにデカくなっちまったのかい?」


「まあね、声も変わったし、でも、顔のパーツはそのままだと思うよ」


「ああ、あの頃と同じだ。あんたなぁ、みんな死んだと思ってたのに、ほら、向こうにみんながいるよ」


 アイラさんはそう言うと遠くを指さした。


「あそこは、スラム街だ。対AI戦争で壊れたビルの隣で、皆で協力しながら暮らしている」


「親父は!?」


 そういうと、アイラさんは顔を曇らせた。


「あの爺さんも、行方不明だ。5年前ここを去った後、爺さんは息子──お前の父親だな──の骨を持って戻ってきた。4年前かな。あの後、家の墓に埋めてくるといって出ていった。あれから居場所はわからない。私達はAI大戦に負けた後、携帯を取られたから連絡手段もないんだ」


「じゃあ!早く行かないと!」


 アイラさんは笑った。


「あんたはほんと、昔から変わらずせっかちだね。少なくとも今日出発することは無理だ。今日はここでゆっくり過去の記憶の中の人々にでも土産話をして、明日行けばいいじゃないか」


「う、うん、そうだね。とりあえずありがとう!」


「おう!」


 アイラさんはあの頃と変わらなかった。


 なによりも、懐かしかった。


「知り合い?」


「うん、リズ、今日はここでキャンプにしよう。俺はあの人達と会話をした後、ここに戻ってくる」


「わかったわ。じゃあ、AIたちに仕事を始めさせるわね」


 そう言うと、指示より先にAI達はテントを広げ始めた。


「やっぱり、優しいのね、カインは」


 リズはそう言い残して、テントを張る作業を始めた。


 俺はスラムの世界に飛び込んだ。


「ただいま!カインだよ!」


 みんなが立ち上がった。


 変わらない面影だ。


 ハルクじいさん、パン屋のテリーナ、ジョイル会長、みんな元気だった。


「おお!」


 みんなの目からは、涙が溢れていた。


 それは勿論、アイラさんも例外ではなかった。

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