蒼き獅子が眠るまで

文月蒼

プロローグ 錆びた鋼鉄と未熟な若人


上空、まだ世界が闇に包まれ、月も太陽すらも顔を出さないとき。二人の男がそこにはいた。


一人は、2メートルはあるんじゃないかという身長にすらっとした体形。だが、その力強い身体とは裏腹に体の半分が普通の肉体ではなかった。左半身に恐ろしく冷たい鋼の肉体を持ち、腰には二挺にちょうの拳銃をぶら下げ、くすんだ銀色に少しぼさっとした長髪。右腕には機械となった左腕にはない、今見ても痛々しい傷が数多く刻まれていた。


もう一人は子供だった。それこそまだ3歳から4歳くらいの子供だ。身長は一メートルもないくらいほどで髪は黒く、目元は少し赤くなっていた。泣いて目をこすっていたのだろう。


「やっと起きたかクソガキ。」


荒々しい口調で口を開き、少年に話しかけたのは銀色の男であった。


「ガキのくせしてなんて目してんだ。」


「…………」


その子供にはともせないはずの感情――殺意、ではない憎しみだ。ただ、それは男に向けたものではなかった。しかし、瞳には銀色を移しながらもその奥に映るナニカをただ見つめる少年を見て男は銃から手を離した。


「ハァ、気がおめぇなぁ。ガキぐれぇは目の前見とけ。」


そう言う男の瞳はこの場を映してはいなかった。ここではないどこか遠い幻想を映し、口だけが笑っていた。そして少年の双眸は男を捉え、少年は口を開ける。


「俺はガキじゃねえよ。それよりここはどこだ? 俺はエリシウムで……。」


「そこならもうとっくに離れたさ、覚えてねえのか?」


先ほどまで寝ていた子供が起きたとき、子供は銀色の男が知らない者だった。だが、それを一度は無視して少年と話す。


「あ?どうしてだ、あそこにはまだあいつが!……、お前、銀翼か?なんでお前が?いったいどういう……。」


「待て待て、なんでてめぇ俺のことを知ってる?それに誰だお前。」


「………」


「チッ、無視かよ。まぁいいさ、てめえに知られたところで何もねぇしな。」


「……ああ!くそ、そういうことかよ。これもあのくそ脳みその古代の魔術ってか。おい、刃物はねえのか。」


「あったとしても渡すかよ。てかお前はいったい誰なんだ。明らかにさっきとは、あんときのガキとは違え。」


さきほどまで寝ていた少年の口調が明らかに別人であること。なぜか自分のことを知っている――いや、知っているどころではない。まるで自分のすべてが見透かされているような目を持った子供――その皮を被ったナニカに問いかける。


「はあ、なんだこのは、俺は野郎とそれもこいつなんかと会いたかったって言うのか?」


「おい、俺の質問にこた……。」


しかし、質問は無視され、少年は立ち上がる。

それはどこかの世界では「ヘリコプター」とそう呼ぶのがふさわしい、まるで黒い箱にプロペラがついた姿をした空を飛ぶ機械の中。銀色の男を押しのけて、少年は扉を開けた。


「いいか、ローブの女の言葉はあまり信じないほうがいいぜ。じゃ、またな。」


そういってその少年は空へと、身を放り投げた。


「待ってろ。くそ脳みそ、ぶっ殺しってやっからよ。」


それが、彼の最後の言葉であった。





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