虚しい告白
時刻は放課後になる。
俺はみんなが部活動や下校で去っていった教室に残り、
机を挟んで対面に座り、日誌を書く。
といってもさすがは優等生の
日直を理由にして部活の時間を少しでも削ろうと画策していたが、どうやら無理そうだ。……まぁどのみち
「んー、感想は何を書こっか?」
「特に変わったことはなかったよな。無難に勉強に取り組む姿勢とかでいいんじゃないか」
「そうだね。中間テスト前だから、みんな普段よりも一段と授業に集中してる感じだったし」
「決まりだな」
「でも、これだけだと余白が出るから他にも何か書き足そう。んー、そうだなぁ……『唯一、
「……午後はしてたよ。そもそも
「じゃあ『かく言う私、
「自分を犠牲にしてまで嘘をつくなよ……」
「でも
俺の顔色を窺うように視線を向けてくる。気になるなら普通に訊けばいいのに。
「
「そうなの? せっかく十パターンのときめく返事を考えてたのになぁ」
「またそうやって嘘を。俺と
「今朝みこちゃんが続きは放課後って言ってたから昼休みは発展しないと思ったんだよ」
「じゃあその考えてた返事を聞かせてくれ」
「一、シンプル一直線な『
「もういいっ、なんか小っ恥ずかしくなるからやめてくれっ。……ったく、マジで考えてたなんて……テスト前に何やってんだよ……」
「もちろん、
まず俺が
「でも、全部みこちゃんの台本なら取り越し苦労になっちゃったな。
「むしろ
「強がりさんだなぁ。みこちゃんと口論してると貴重な時間が無くなっちゃうよ。本物の差出人を見つけなくていいの?」
「もう諦めてる。この謎は時間的にも情報的にも少なすぎて手に負えない」
「なんか
「俺は探偵じゃなくて普通の高校生だからな。どうしようもないこともある」
「今朝はあんなに早く登校するほどやる気を見せてたのに、たった一日で急な心境の変化だね」
「
冗談っぽく聞こえるように努めて言うと、
「どういう推理でそう思ったのかな?」
「単に言ってみただけだけど、あえて推理を捻り出すなら消去法だな。
「もし私なら
「初めから
「…………」
目を伏せ、重ねた両手を胸に当てて一度だけ静かに深呼吸をする。
そしてゆっくりと顔を上げ、俺を一途に見つめて口を開く。
「そうだよ。私がラブレターの差出人なの」
淀みのない声でそう言った。
「返事を……聞かせてもらえるかな?」
期待を示すように、または恐怖を押し殺すように微笑み、俺の次なる言葉を待つ。
夢の中でさえ叶わなかった光景が目の前に現れて俺は────「はぁ~」と嘆息した。
「本音は?」
「
「期日が今日までだから焦って告白したんだよ」
「焦るぐらいなら匿名で出さないし、期日を設けない」
「私、
「心がこもってないし、どうせ続きがあるんだろ。友達として、とかな」
俺がそのあからさま過ぎる反応を見続けていると、やがて手を外して上がった口角を見せる。
「ふふ、さすがは
肯定の笑みを浮かべ、パチパチと手を打ち鳴らす。
やっぱりお得意の嘘か。あの聡明な
「もっとドギマギした
「一般人相手にガチ演技するなよ……」
「今部活で王子様に恋するお姫様を演じてるからね。告白シーンの練習にちょうどいい雰囲気だったから我慢できなかったの。返ってくる反応次第で技量も測れるしね」
「それで俺が本気にしたらどうするんだ?」
「その時はその時で良かったかな。私、
「……はいはい。もう演技は終了して、早く日誌を終わらせよう」
これ以上会話を続けるのは虚しいし、俺のほうが本音を吐き出してしまいそうになる。
そして書こうとしたところで手を止め。
「でも本当に……
「……さぁな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます