6-3 X46と

 X46が到着した。あらためて観測を開始。

 観測項目の一丁目一番地はX46の役割だからその結果は俺もとても気になっていた。

 とはいえ、まだその観測というか調査はお預けのようだ。

 ただ、事前に俺たちが調査していた結果を共有することで本調査の日程をかなり短縮できることが分かった。分かったというか知っていたんだけど。

 本調査というのはずばり探査ロボットを地表に降下させての直接調査だ。X46のペイロードが厳しかったのはこのロボットを搭載していたからだという。

 俺たちは事前にそのロボットを下す場所の情報集めをしておいたというわけだ。

 ロボットが地表に下され現地の映像を受信した。イシドル教授たちには悪いが最初の映像を見ることができたのは役得だね。

「映像上は地球と同じような進化をたどってるな。」

 ちょっと落胆してしまったが、これが素直な感想だ。

「航空観測からしても予想されてたことですけどね。」

 X46が答える。

「でも、DNAを確認するまではわかりませんよ。収斂進化の可能性がありますから。」

 俺の落胆を察したのかX46は慰めるようにフォローしてくれた。

「それより、お姉様!」

「よろしくってよ。」

 なんだよ。俺のわからないところで何かあるのか。

 レーダーをみるとX46がグリーンリンクス号に近づいてくる。

 ガッコンと大きな音が響いた後、ジーンと鳴り響く。閉鎖された空間だから外郭の音が良く響く。太鼓の中にいるようなものだから。つまりこの音はグリーンリンクスの筐体が何かと衝突したことを知らせる。ああ、そうか、ドッキングだ。リンクスのほうがX46よりも送信出力が大きいから俺たちがこの宙域にいる間はベース惑星への連絡はリンクスがおこなうんだった。

「お姉様とくっつけて私、感激です!」

 ピーコックも似たようなこと言ってたが、こいつらの感覚はわからん。


 お楽しみのDNA検査の結果を受診する。量子コンピューターだと全ゲノムの分析はなんら難しいことではない。その結果は99.9%俺たちと同じ起源であることが示されてる。世紀の発見ならず。分かっていたけど、やっぱり少し残念。

「やりましたね。この星系でも太陽系と同じ起源です。少なくとも太陽系からこの宙域の範囲ではパンスペルミア説の尤度ゆうどが高まりました。」

 X46は俺とは逆に考えているらしい。

「リンクスはパンスペルミア説が覆されるのともっともらしさが高まるの、どっちがよかった?」

「私はどちらでもよいわよ。でも、シルフにとって残念な結果だったのは私も残念に思うわ。でも、今回の探査でたくさんの発見ができているんだからそれでいいじゃない。」

 それもそうだね。そもそも今回の探査の目的は自分自身が役に立つことを示すことだから、それは十分に果たせてる。それに2機による探査は意外な効果も生じてる。例えば、同時に多方向からの観測によって精度を大きく改善できたり、岩石群の調査においては目が増えるだけで想像以上に航行が楽だった。


 観測中に新たなアイデアを思い付いた。

「良いこと思いついたんだけど。」

「なにかしら?」

 リンクスに思いついたアイデアを話す。それはX46が持ち帰る予定のサンプルを俺たちが持ち帰るというアイデアだ。X46は俺たちが帰還した後も探査が続く。そして最後にサンプルを持ち帰るというミッションもある。その一部を先に俺たちが先行して持って帰るということだ。それで数年の時間が圧縮することができるわけだ。

「なるほど。課題を抽出してX46と相談してみましょう。」

 課題は生体汚染だ。この場合、被害を被る可能性があるのは俺だ。

 サンプルは地表に下したロボットが取得したサンプルをカプセルに封入し気球により成層圏まで打ち上げてそれを取得する。カプセルに付着した菌やウイルスが閉鎖空間を超えて俺に影響が生じないかを懸念しているのだ。

「外郭スペースなら問題ないだろ。」

「外郭スペースは観測機器が満載よ。カプセルを納める余裕はないわよ。」

 ふふふ、考えなしの発言ではないぞ。

「その観測機器を捨てちゃえばいいだろ。」

「どこに?」

「主星に。」


「いけません! 観測機器はシルフ様の財産です。それを捨てるなんて!」

 思いついたアイデアをX46に披露したところ拒否された。

「そうだけど、数年圧縮できる価値は十分あるよ。」

「少なくとも私の権限ではその提案を受け入れることはできません!」

 X46がOKしてくれなければせっかくのアイデアも実行できない。

「それだったら、俺の観測機器はX46が預かってよ。」

「そうすると、X46の質量が増して帰還スケジュールに影響が出るわよ。」

 リンクスが答える。

「帰還スケジュールに影響が出ない方法を考えればいいだろ。」

「そんな都合のいいことなんてあると思う?」

 良いアイデアだと思ったんだけどな。本当にないのか。

「帰還スケジュールはベース惑星での観測で決められたんだろ。実際に航行した俺たちはそれ以上の情報を取得しているんだから、もっと短縮できる方法があるんじゃないか。リンクス、頼むよ。」

「う、シルフがそう言うなら…。X46、あなたの量子コンピューターも借りるわよ。」

「お姉様! 私のリソースはいくらでも喜んでお貸しします!」

 リンクスがお願いしたら折れてくれるんじゃないのかなぁ?

 

 おれのナイスアイデアがボツ、いや、ペンディングになって7日。突然、リンクスが発言した。

「答えが出たわ。」

「先日のアイデアの件?」

「そうよ。複数の方法があったんだけど、シミュレーションに思ったより時間がかかってしまったわ。」

 リンクスが結論から話さない場合は往々にして自信がないときだ。リンクスの自信のないというのは少しだけ失敗する可能性があったり、リスクのリカバリープランがないときだ。

「是非聞かせてよ。」

「そうね、X46の計画の予定より少し待ってから出発すれば惑星配列を利用して高効率で加速ができるわ。つまり増えた重量分による加速の問題はそれで補って余りあるということよ。無人だから慣性航行でも問題ないしね。」

 なるほど。でもその計画にはまだ解消されてない問題もあるぞ。

「もう分かってるかと思うけど、重大な問題が残ってるわ。」

「減速だね。逆噴射の燃料が足りない。」

「そうね。加速したらその分減速をしないとならないわ。それでその問題の解決を私たちがするの。」

「どうやって?」

「まず、私たちが道中でドッキングして私たちが減速をアシストするの。」

 それまた飛び道具がでたな。でも、それでX46を納得するかな。

「後は私が説得するわ。それでだめだったらあきらめてね。」

 一週間もかけて検討してくれたリンクスのアイデアだ。どうにか飲んでもらえると良いんだが。


「お姉様に言われても予定を変える権限は私にはないですから。当初の予定通りではダメなんですか?」

 リンクスの説得でもX46はOKすることがなかった。

「権限ねぇ。それってさ、俺たちが確認することってできる?」

 X46の考えを変えるヒントをどうにかして見つけないと。

「はい。もちろんです。私の任務において設定されている権限はオープンですから。」

 X46に設定されている任務上の権限をリンクスと一緒に確認する。

「特に禁止されてないぞ。」

「そうね。私たちのアイデアを拒否する明確な理由はないわね。」

「でも、許可されてないことをやるなんて。なにかあったら…」

 ああ、そういうタイプの子だったのね。俺たちみたいなルールの隙間を渡り歩いてるとやるなということ以外はやっていいって考えちゃうからね。何だったら禁止されてても…って。さすがにイリーガルなことはやらないぞ。

「権限というか指示として、俺たちと協業して効率よく任務を遂行する事が追加されてるじゃん。俺の提案していることはさ、物理的に何年も早くサンプルを届けることで、それってその最たることじゃないかな。」

「そうよ。それにあなたがOKしないなら私たちは観測機器を主星に捨てるだけよ。そうしたら障害はないでしょ。」

 リンクスが最初に話を戻す。

「それは、シルフ様の財産ですから…」

「あなたが預かってくれれば問題がないわよ。16年後には私たちの提案が通るわ。それまで預かってくれればいいから。」

 16年後というのがベース惑星へこの提案をして返事が返ってくるまでの時間だ。片道8光年あるので往復にそれだけの時間がかかるということ。

「それに今回の任務の変更点だって私たちが活動することが決まって変更が加えられたのよ。依頼人のイシドル教授やそのチームとシルフは懇意にしているから間違いないわ。」

「お姉様がそう言うのなら、私やってみます。また、お姉様が助けてくれるんですよね。」

「もちろんよ。」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る