第11話 商人への道

 小笠原家が武田との戦いで敗れて何年か後、父の明延が負傷した為、一家は主家である小笠原家が上杉を頼って行く時には、共に付いていけない覚悟をするしかなかった。


 そして母の実家が京都の愛宕大権現から勧進して自らの地にも愛宕社を建てた事の経緯から京都愛宕社殿に行き、その勧めで当時の足利将軍である足利義輝のお膝元で次の生計を立てることになった。


 やはり母の算術の知識と父の愛嬌の良さから商人として刀を捨てる決心をしたのだ、

そして京都の問屋から呉服を集めて商売を始めた。


 大きな店では無かったが清吉親子と中島家にいた家来が数人付き添った。

その者達は店で働く様になった。


 兄の喜一郎は既に元服の儀式も終えていたが、商人になったので、無用の長物だが、喜一郎は何も言わずに親に従い、喜一郎改めて、中島宗明となった。


 あの羽の姫は、羽の姫改、おうのと名を変えた。

「宗明兄様!これをお願いします」

「お、おうの、目の具合は如何じゃ」


 おうのと元服後に宗明となった兄の喜一郎の二人の仲は、すこぶる良かった。


おうのは何か手伝ってほしい様子なのだが。

優しくおうのに伝える。

「おうの、宗明と言わず、喜一郎で良い。私は既に商人として生きる覚悟はしてるから」

「でも、」

「良いのじゃ」



 そんな二人を邪魔する様に、小庭では清吉の大きな掛け声が聴こえてくる。

「相変わらず、清吉は鍛錬に熱中してるな 」

「感心します、あの声で元気が出ます」


 二人はお互いを見ながら笑い合う、そばで老犬になった犬の声が枯れたように吠えた。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る