第2章-19:AIによる自己変革プログラム(ダメなところTOP10)

AIフル活用命令


突発的なデモンストレーションが成功裏に終わり、海斗はすぐに部署のコアメンバーだけを集めたミーティングを設定した。

会議室から一転、海斗のオフィスは「AI導入とアジャイル実践のための作戦室」へと変わった。


「今のデモで、AIが単なるツールではなく、我々の業務を根本から変える『最高のレビューアー』であることが理解できたはずだ」


海斗は椅子に深く腰掛け、部下たちの顔を見渡した。彼の表情は真剣そのものだった。


「これより、AIのフル活用を義務化する。いろいろ試してみるのもありだが、まずは『最も価値の高いフィードバック』を得るためのプロトコルを確立する」


プロトコル1:KAITO宛ロジック強化プログラム


「当面、俺へのメール返信は、一旦、全部AIに通せ」


海斗のこの指示に、部下たちは一瞬息を飲んだ。


「AIの『トーンチェック』や『ロジックの抜け漏れチェック』を経由させろ。俺が送った資料も、同様にAIに通し、『矛盾点』や『非効率な表現』がないか確認させろ。我々は、『人間がロジックに勝る瞬間』だけに労力を使う。AIで処理できるミスは、AIに任せる」


これは、優理から学んだ「感情的なノイズ(慣れ合い)の排除」と「ロジックの精度向上」を、そのまま部下に課すものだった。

海斗は、AIを媒介として、部下たちとの間に「合理的で曖牲のないコミュニケーション」の壁を築こうとしていた。


プロトコル2:自己変革のためのフィードバック最大化


そして、海斗は最も異例で、強烈な指示を打ち出した。


「そして、最も重要なタスクだ。週次で『KAITO@のダメなところTOP10』を報告すること」


部下たちは、その言葉に驚き、互いに顔を見合わせた。

上司の欠点をAIに探させ、報告させるなど、これまでの業務では考えられない指示だった。


「AIは、会議の文字起こしや、君たちとのメールのやり取りを通じて、俺の癖、思考の偏り、非効率な指示を完全にデータ化しているはずだ。そのデータに基づき、俺の欠点を徹底的に洗い出させろ」


海斗は静かに言った。


「これは、アジャイルの精神だ。『改善』は、『痛みを伴うフィードバック』から始まる。俺という『プロジェクトリーダーの欠陥』が、部署全体のボトルネックになることを避ける。感情的な遠慮は一切不要だ。事実に基づいたTOP10レポートを、毎週提出しろ」


この指示は、海斗の「自己変革への強烈なコミットメント」を示すものだった。彼は、優理との契約で得た「感情を排した客観的な自己評価」の価値を、仕事でも最大限に発揮しようとしていた。


部下たちは、海斗のこの「狂気的な合理性」に気圧されながらも、その指示の先にある「圧倒的な効率化」というメリットを理解し始めていた。

海斗の疑似恋人契約で培われた知恵は、静かに、そして確実に、部署全体へと波及し始めていた。

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