サブローと小さいおじさんと大きな昆虫
スター☆にゅう・いっち
第1話
ある日、ニートのサブローの部屋に、二十センチほどの軍服姿の小さいおじさんが突然現れた。
そのおじさんは深刻な顔つきで言った。
「我らの世界では今、戦争が続いている。地球人よ、どうか援助を願いたい」
サブローは目をこすった。寝ぼけて幻でも見ているのかと思った。
「……援助って何を?」
「カブトムシ、クワガタなどを生きたまま欲しい」
あまりに突拍子もない要求にサブローが夢だと決めつけ笑い飛ばそうとしたとき、おじさんは小さな剣を取り出し、サブローの腕をちくっと刺した。
「痛っ!」
確かな感覚が走り、サブローは青ざめた。
「本物だと分かったか。我らはそれを兵器にする。報酬は必ず与える」
そう断言されてしまうと、サブローに拒否する勇気はなかった。
おじさんは光の穴を開き、そのまま消えてしまった。
サブローは仕方なくパソコンを開き、ネット通販で「生きたカブトムシ」「生きたクワガタ」と検索してみた。
すると、夏の昆虫シーズンのせいか、あっさりと販売ページが見つかった。
「へえ……セット売りまであるのか」
とりあえずカブトムシとクワガタを二箱ずつ購入し、数日後、届いた飼育ケースをおじさんに渡した。
おじさんは大喜びで小さな体を震わせ、かしこまって敬礼した。
「これで前線の兵が助かる! 必ずや報酬を――」
そう言うと、光の穴を開き、そのまま消えてしまった。
数日後、再び現れたおじさんは、重そうな袋を台車に載せて差し出した。中にはきらびやかな金貨がぎっしり詰まっていた。
「確かに受け取ってほしい」
サブローは目を丸くした。通販で一万円払った虫が、数十倍の価値になって戻ってきたのだ。
それからというもの、サブローの部屋は昆虫の一時集積所となった。夜な夜な小さいおじさんが仲間を連れて現れ、飼育ケースを担いで異世界へと消えていく。報酬は毎回確かに支払われ、部屋の隅には金貨が山のように積まれていった。
一年後。サブローはテレビのニュースを見て息をのんだ。
「異世界からの侵入と思われる甲虫型の怪獣が、各地で出没しています」
画面には、鎧のように強化された巨大カブトムシとクワガタの部隊が、現代兵器の弾丸や爆弾を軽々とはね返し、都市を進軍する姿が映っていた。
サブローは慌てて金貨を押しやり、天井を仰いだ。
「……もしかして、オレが戦争のスポンサー?」
答える者はなく、ただ窓の外から夏の蝉の声だけが響いていた。
サブローと小さいおじさんと大きな昆虫 スター☆にゅう・いっち @star_new_icchi
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