第24話

王都アヴァロンは今まで見たどの街よりも巨大で、とても美しい場所だった。

高い城壁は、磨き上げられた白い大理石でできている。

その上には、青い屋根の塔がいくつも空に伸びていた。

城門をくぐると、そこは活気に満ちた別世界が広がる。


石畳の道は広く、ゴミ一つ落ちていない。

道の両脇には、レンガ造りのおしゃれな建物が整然と並んでいた。

行き交う人々も、皆が良い服を着ている。

その表情には、自信と誇りが満ち溢れているようだった。

これが、この国の中心なのだ。

世界の中心と言っても、大げさではないだろう。


俺たちの馬車は、街の人々の注目を集めていた。

辺境伯家の紋章が入った立派な馬車と、その後ろをついてくる変な形の木の馬車。

誰もが、興味があるようにこちらを見ている。


「すごいな、これが王都というものか」

俺が感心した声を出すと、隣を馬で走っていた騎士団長が誇らしげに言った。


「ええ、この国で最も栄えている場所です。ですが、その光が強いほど影もまた濃くなるものでしょう」

彼の言葉には、深い意味が込められているように感じた。

この華やかな都にも、腐敗や悪い企みが渦巻いているのだろう。


俺たちは、王城へと続く中央大通りを進んでいく。

道の先には、ひときわ大きく、天を突くようにそびえ立つ城が見えた。

白い城壁と、金色の尖塔を持つ美しい城。

あれが、国王陛下がいるアヴァロン城だ。


城の正門では、近衛騎士団が厳しい警備をしていた。

俺たちの馬車が近づくと、数人の騎士が槍を交差させて道をふさぐ。


「何者だ、名を名乗れ」

その声は、鋼のように冷たく響いた。


俺たちの馬車から、辺境伯様がゆっくりと姿を現す。


「辺境伯、アウグスト・フォン・ヴィスコンティである。国王陛下に、急ぎの知らせがあり参上した。道を、開けていただきたい」

辺境伯様の名を聞いて、近衛騎士たちの顔に緊張が走った。

彼らは、すぐに敬礼し槍を収める。


「これは、ヴィスコンティ卿でしたか。大変失礼いたしました、どうぞお通りください」

辺境伯の権威は、王都でもとても大きいようだ。

俺たちは、城の中へと馬車を進めることができた。


城の中庭で馬車を降り、俺たちは謁見の間へと案内される。

長い廊下は、磨き上げられた大理石でできていた。

壁には、昔の王たちの肖像画が飾られている。

そのどれもが、威厳に満ちた表情でこちらを見ていた。


やがて、ひときわ大きく、豪華な飾りがされた扉の前に着く。

扉の前には、宰相らしい身なりの良い老人が立っていた。


「お待ちしておりました、ヴィスコンティ卿。陛下は、すでにお待ちでございます」

宰相は、辺境伯様に丁寧に頭を下げた。

だが、その目は俺の姿を試すように見ている。

その視線には、はっきりとした侮蔑の色が浮かんでいた。


「それで、そちらの若者は誰ですかな。まさかこのような神聖な場所に、身分も知らない職人を連れてきたのではありますまいな」

その言葉は、俺だけでなく辺境伯様をも馬鹿にするものだった。

辺境伯様の顔が、怒りでわずかに引きつる。


「宰相殿、言葉を慎みなさい。この者こそ、我が領地の未来を担う最高の技術者ルーク君だ。陛下が、直接お会いになりたいと望まれたのだ」

辺境伯様の静かだが、逆らえない迫力に宰相は驚いた。


「し、失礼いたしました。どうぞ、中にお入りください」

宰相は、悔しそうに顔を歪めながら扉を開けた。


謁見の間は、息を呑むほどに広くて豪華な場所だった。

天井は、夜空を描いた絵で埋め尽くされている。

床には、赤い絨毯がどこまでも続いていた。

その絨毯の先、一段高くなった場所に黄金の玉座が置かれている。

そこに、一人の男が深く座っていた。

この国の王、アルフォンス・レクス・アヴァロンだ。

年は、まだ四十代前半くらいだろうか。

金色の髪と、空のように青い瞳を持つ絵に描いたような美男子だ。

だが、その表情はどこか疲れているように見える。


俺たちは、玉座の前まで進み深く頭を下げた。


「顔を上げよ、アウグスト。よく来てくれたな」

国王の声は、若々しくも威厳があった。


「はっ、陛下におかれましてもご健康そうで何よりです」

辺境伯様が、丁寧にあいさつする。


「うむ、それでそちらの若者がルーク君か」

国王の、鋭い視線が俺に向けられた。

それは、人の心の中まで見通すような、不思議な力を持つ瞳だった。


「はい、ルークと申します」

俺は、緊張をなんとか押さえてはっきりと答えた。


「アウグストから、君のことは聞いている。すぐには信じがたい、奇跡のような技を持つそうだな。そして、アルダー伯爵家の嘆かわしい行いについても」

国王の表情が、悲しそうに曇った。


「あの男も、若い頃はもう少しマシな男だった。権力と欲が、人をここまで変えてしまうとはな」

その言葉から、国王が必ずしもアルダー伯爵の味方ではないと分かった。

俺たちに、勝つチャンスはある。


「今日は、その証拠となる品をお持ちいたしました」

辺境伯様は、そう言うと懐から帳簿の束を取り出した。

近衛兵が、それを受け取り国王の元へと運ぶ。

国王は、帳簿を一枚一枚、丁寧にめくっていった。

読み進めるにつれて、その眉間のしわが深くなっていく。


「なんという、ことだ。ここまで、腐敗が進んでいたとはな。朕の、目が届いていなかったことを恥じるしかない」

国王は、深くため息をついた。


その時だった、謁見の間の扉が乱暴に開かれた。

そこに立っていたのは、俺の父親であるアルダー伯爵と兄のギルバートだった。

彼らは、辺境伯が王に会うという知らせを聞き、慌てて駆けつけてきたのだろう。

その顔は、焦りと怒りで醜くゆがんでいる。


「これは、ヴィスコンティ卿ではないか。陛下に会うのに、我らに知らせもせず独断で行うとはどういうつもりだ」

父親は、辺境伯様を睨みつけながら言った。

だが、その目は明らかに動揺している。


「そして、ルークもいるな。この親不孝者が、なぜこのような場所にいるのだ。お前は、もはや我が家の人間ではないはずだがな」

父親は、俺の姿を見つけると憎しみを込めて吐き捨てた。

ギルバートも、その隣で俺をさげすむような目で見ている。


「アルダー伯爵、控えなさい。ルーク君をここに呼んだのは、朕なのだ」

国王の、静かだが逆らえない一言で父親は言葉に詰まった。


「陛下、この男の言うことなど信用してはなりません。こやつは家を追い出された腹いせに、我らを悪く言おうとしているのです。この帳簿も、全てこやつが作り上げた嘘に違いありません」

父親は、必死に言い訳を始めた。

その姿は、実に見苦しいものだ。


「ほう、嘘だと言うのか。では、その証拠を見せてみなさい」

国王が、冷たく言い放った。


「そ、それはですな」

父親が、言葉に困ったその時だった。

俺は、静かに一歩前へ出た。


「陛下、よろしければ俺が証明いたしましょう」

俺は、そう言うとスキルを発動させる。

そして、国王が手にしている帳簿と全く同じものを、目の前の空間に木で作り出してみせた。

文字の一字一句から、インクの染み一つまで少しも違わない完璧な複製だ。


「な、なんだと」

父親とギルバートが、信じられないという顔で目を見開く。


「これが、俺の力の一部です。俺が作ったと言うなら、いくらでも同じものを作り出せます。ですが、あなた方にそれができますか。この帳簿に書かれた、あなた方の字を今この場で書いて見せられますか」

俺の静かな問いかけに、謁見の間は静まり返った。

父親とギルバートの顔から、血の気が引いていく。

もはや、彼らに逃げる場所はなかった。

全ての嘘が暴かれ、真実が明らかになる時が来たのである。


国王は、玉座からゆっくりと立ち上がった。

そして、アルダー伯爵を厳しい目で見つめる。

その手には、不正の証拠である帳簿が固く握りしめられていた。

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