意地っ張りな私

こてつ

第1話 フラれた?

「すみません。一応なんですけど、年齢確認を」

 申し訳なさそうにレジの男の子から言われてしまった。見慣れないバイトの子だった。入ったばかりなのかもしれない。もう三十歳なのに、未成年にでも見られたようだ。随分と真面目な店員さんだ。目の前の彼からしたら、オバサンとも言われちゃうような年齢なのに、そう言われても私はそれほど嫌な気はしなかった。


 私は「どうぞ」と言いながら免許証を見せた。

 彼が頭の中で、生年月日から年齢を数えている様子が伺える。そして、ハッと少し驚いたような表情に変わった。

「すみません! 失礼しました」

 一段と恐縮して免許証を差し出してきた。

「いいのよ。若く見られて嬉しいわ」

 そう優しく返してあげると、ホッとしたような表情を見せた。

 缶ビール三本に小さいウイスキーの瓶、炭酸水のペットボトル。他に冷凍の餃子と小籠包とエビチリ、それと大袋のチャーハンを手にコンビニを出た。レジの彼は私のことをどう思ったのかしら。よく飲んでよく食べるオバサンとでも思ったかしら。こんな深夜にこんなに買い込んで。


 明日は土曜日。今日はやけ酒、やけ食いすると私は決めた。

私は今日、三年付き合った彼と別れた。私から振ったのではない。彼から振られたのだ。三年も付き合ったし、私は三十歳になったばかりだし「聞いてほしいことがある」と、食事中に言われた時は、内心、やっと言ってくれる。私も結婚できる、と思ったものだ。けれど、彼から出てきた言葉は「別れよう」の一言だった。

 私は意味がわからなかった。結婚への言葉がくると思っていたのに、真逆とも言える言葉だったのだ。呆然とし、何も言葉が出なかった。彼からも言葉が続いてくることはなかった。


 沈黙が続いている。店内に響く軽やかなジャズだけが耳に入ってくる。目の前には赤ワインと生ハム、真鯛のカルパッチョ、牛ハラミのステーキが並んでいる。

(あ、ステーキ、もう冷めちゃってるかな。これ美味しいのにな。もったいないな。でも、冷めても美味しいかもな。少し硬くなってるかもだけど、味は美味しいんだろうな~)

 私は彼を見ず、目の前に並んでいる料理に目を向けていた。

 やがて沈黙を破るように、彼が立ち上がった。そして、テーブルに置いてある伝票を取り、立ち去って行った。


 私は生ハムに手を出し、口に運んだ。うん。美味しい。バルサミコのソースが美味しいんだよね~。ワインのグラスを口に運ぶ。軽い口当たりがソースに合うな~。カルパッチョに手を出す。自家製のマヨネーズを使ったソースが美味しいな~。冷めてしまった牛ハラミのステーキを一切れ口にする。うん。冷めても美味しいな~。

 私は並んだ料理を、周りの目も気にせずに食べきってしまった。途中、ワインがなくなってしまったが、自分でお金を払うのも癪だと思い、お酒を追加することはせず、水をお願いした。

 一息ついて私は勢いよく席を立ち「ご馳走さま」と、少し憐れんでいるような目をしている店員に言い店を出た。

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