世界に転生した俺は、勇者たちを導く

鈴木 泉

第1章 出会い

第1話 俺、世界になる



俺の名前は佐藤。

どこにでもいる、ごく普通の社畜サラリーマンだった。


毎日満員電車に詰め込まれ、深夜まで残業、休日は寝るだけ。

晩飯はカップ麺かコンビニ弁当。課長の小言とパソコンのエラー音が子守歌。

……まあ、ありがちな人生だ。


そんな俺の最期は――たぶんというか絶対過労死。

会社のデスクに伏せたまま、気づいたときには真っ暗闇に沈んでいた。


そして次に目を覚ましたとき、俺は“世界そのもの”になっていた。


……いや、意味がわからない。


空も海も大地も山も、ぜんぶ俺。

風が吹けばくすぐったく、地震が起これば腹痛みたいに響く。

最後に聞いたのは、適当に話す女神の声。


でも、そんなことよりも問題があった。


――暇すぎる。


時間の流れは永遠みたいに長いし、話す相手もいない。

雲を流しても、星を眺めても、ぜんぜん心が満たされない。


(……俺、人と話したいんだな)


そう気づいたとき、俺は「分身」という仕組みを試してみた。

大地の欠片を形にし、意思を込めて……やがて一人の青年がそこに立っていた。


黒髪に地味な顔。どこにでもいる、冴えない冒険者風の青年。

俺のもう一つの姿――「テーレ」。


こうして、俺は再び“人間”として歩き出した。


「さて、何をやろうかな」



それから数年。

小さな村へ続く道で、いつも通り平穏な毎日を繰り返してた俺は三人組とすれ違った。


先頭を歩くのは、剣を腰に差した黒髪の青年。青いメッシュが光ってやたら自信満々だ。

その後ろには、巫女服姿の黒髪ショートの少女。両手を胸の前で組み、祈るように歩いている。

最後尾は、銀髪ロングの女性。ローブをまとい、杖を軽くついて、冷たい目で前を見据えていた。


(……なるほど、冒険者のパーティか。)


俺は道端の石に腰かけて、ぼんやりと彼らを眺めていた。

すると先頭の青年が突然立ち止まり、剣を抜いた。


「見ろ! 魔物だ!」


(いや……ただの野ウサギだろ、それ。)


「よし、俺が仕留める!」


そう言って飛びかかった瞬間、足がもつれて転倒。

剣は見事に地面に突き刺さった。


「……はぁ」

銀髪の魔法使いはため息。

巫女の少女は「だ、大丈夫ですか!?」と慌てふためく。


(うん……ダメだろ、このパーティ)


俺は内心でため息をつきつつ、立ち去ろうとした。

けれど、不思議とその背中が気になって仕方がなかった。


「どうせ暇だし。少し様子を見てみるか」


こうして俺――世界は、分身テーレとして勇者一行と初めて出会った。


まだ、これが奇妙な旅の始まりだとも知らずに。


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