ひりひり、

流音

第1話

ちり、

と胸に刺さる何か。


コウタがいなくなった。


煙草をくゆらせながら、思いを馳せる。

あれは、いつのことだったかと。


コウタとは幼馴染で、産まれた時からなんて言ったら大仰だけど、本当にそれくらい一緒に居た。

コウタに初めて彼女が出来たとき、初めてコウタが野球部の部長になったときのこと、そんな他愛も無いことから、それからあの日のことも、まるで目の前にはっきりとした輪郭のあるスクリーンがあるように覚えてる。


じりじり、


コウタの乗ったバイクが横転したと、コウタのお母さんから聞いて、なんだか一瞬、夢の中にいるみたいにぽわっとしてしまって、ああ、頭が真っ白になるってこういうことを言うんだな、と後から思った。


トラックに追突して横転した割には綺麗な顔をしているな、と葬儀のときに朧気に感じた。

朧気。

そう、すべてが霞がかったような。


コウタが逝った。

コウタ。

わたしの幼馴染で、

わたしの初恋で、

わたしの身体の一部分であったかのようなコウタ。





煙草の煙が、冬空にきらきらと光る星々にもやをかける。


ひりひり、する。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ひりひり、 流音 @mamehanata

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ