私以外認めません!

鈴木雨丸

第一話 通り雨

「うひゃあ! 降ってきちゃった……」

 桜子は団子の入った手荷物を下げて、適当な軒下へ雨宿りした。

 雨は最近多く、傘を持ってこなかったことを後悔する。

「いつ止むかなあ……」

「しばらく止まないだろう」

 横を見ると、いつの間にか男がいた。

 雨に降られ、黒髪から水滴を垂らしている。

 それでも。

 (かっこいい……)

 と桜子が思うくらいには、隣の男の顔は整っていた。

「娘。名前は?」

「え……。桜子です……」

「困っているなら家まで送るぞ」

「ええ!? でもお仕事中なんじゃ……?」

 男は軍服を着ていた。体つきもよく、桜子には若干怖い。

「困っている市民を助けるのも軍警の勤めだ」

 そう言って、男は桜子の荷物を持つと、先立って歩き出した。

 桜子は仕方ない、と雨の中に一歩踏み出したが……。

 (……? 雨が避けてる……?)

 不思議と男と桜子は雨に濡れることがなかった。

 (……雲の切れ間とか?)

 楽天的な性格である桜子はそれで納得した。

 二人は桜子の家に着く。

「あっ、あの、ありがとうございました! お茶でも……」

「いい。仕事に戻る」

 そう言って、無骨な男は外へ出ていった。

 不思議と、雨が男を避けているようである。

「……そんなわけないか」

 桜子は団子を食べようと、家の中へ入る。

 男がこっそり地図を書いていることなど、知るよしもなかったーー。

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