ここからだ

 ククールだ。聖騎士団のメンバーと森の中に入って行くと、赤くて異常にデカいオークを発見した。オークの亜種だということもあり中々の個体である。森が血生臭いのもコイツの影響だろう。手に持った大きな斧には血が滴っていた。


「全員構え、このオーク中々に強いぞ」


 そう言って全員に剣を構えさせたが、ここにオークが居るということは先に行ったカマセがどうなったか容易に想像できた。


「マタ、ニンゲンカ、シツコイゾ」


 驚いた、人語も喋るのか。コイツは研究者たちに差し出したら泣いて喜ぶかもしれない。しかしながら生け捕るつもりは無い。私達の任務はあくまでも討伐であり、それ以下でもそれ以上でも無いからである。

 それにしても、また人間か……ということは私の感は当たっていたらしい。


「お前、私の部下を殺したな」


 私がそう問うと、オークはニタリと笑った。


「アァ、コロシタ♪アノオトコハ、ナキサケビナガラシンダ、ショウベンマデモラシタテタゾ♪」


 私はハァと深く溜息を吐いた。カマセの奴め聖騎士団として面を汚し過ぎる。やはりオムツを履かせておいた方が良かっただろうか?


「オンナ、オマエハ、オカシナガラコロス♪」


 ほぉ、オークにとって私は好みだったらしい。魔物に好かれるとは不名誉極まりないけどな。さてさて、そろそろ来ても良い頃だ。私は森の中に潜んでいるであろう男に向かって喋りかけた。


「カマセ、そのオークは自分で倒せ。次負けたら殺すからな」


 多少腹も立っていたので言葉が悪くなってもしょうがない。全くもって不甲斐ない部下を持つと頭が痛い。


「ちょ、なんで言うんですか‼……せっかく暗殺しようとしたのに‼」


 森の茂みからカマセの奴が出てきた、鎧は所々砕け、中に着ている服もビリビリである。今回も酷くやられたな。


「うるさい、そんな奴は正面からやっつけろ。この小便小僧が」


「げっ‼なんでまた漏らしたのバレてるんだ‼さてはクソオーク‼テメーバラしやがったな‼」


 ギロリとオークを睨むカマセ。もうオークのことを軽んじる様子はないようだ。初めから油断も慢心もしなければ良いのにな。


「キ、キサマ、ナゼイキテイル」


 殺したはずの相手が生きていて酷く狼狽している様子のオーク。ちなみにここに居るカマセは亡霊でもゾンビでも無い。ただ蘇生して生き返っただけの人間である。


「俺はな、ククール隊長のお気に入りだから、隊長からあらかじめ死んだ後に生き返る様に蘇生魔法をかけてもらってるんだ、どうだスゲ―だろ♪」


 自慢げなカマセだが。なんか腹立つな。


「次死んだら、肉片を犬の餌とする」


「えっ⁉そりゃ無いっすよ‼」


 さてココまで発破を掛ければ大丈夫だろう。後は戦いを傍観することにしよう。


「マタコロシテヤル‼」


 オークはデカい体の割に俊敏で、一気にカマセに近づいて行く。その時カマセは剣を構えようとしたが、大事なことに気が付いた。


「あっ、剣をさっきのところに忘れてきた」


 おいおい、相変わらずのおっちょこちょいだ。こりゃまた死んだかなと私が思っていると、カマセは瞬間的にオークの背後に回った。中々の身のこなし、どうやら心配する必要は無さそうだ。


「まぁ剣が無くても、拳があるか」


 カマセは跳躍してオークの顔目掛けて拳を構えた。丁度その時オークが振り向こうとしてたので良いタイミングだ。私は思わず声を出してしまう。


「一発ぶちカマセ‼」


 ガン‼とオークの顔面にカマセのパンチが炸裂し、オークは顔面がひしゃげた後に倒れてしまった。ズズン‼と地鳴りがしたので、かなりの重量があるな。

 仰向けに倒れたオークに、油断も慢心も無いカマセはマウントポジションを取り、ボコボコと殴り始めた。


「死ね‼死ね‼死ね‼万回死ね‼」


 殺された恨みを晴らすように血濡れた拳を振い続けるカマセ。その様子はとても聖騎士団とは言い難いし、もう既に死体殴りと化していたが、私は部下思いなので気が済むまでやらせておくことにしよう。部下の憂さ晴らしまでさせねばならんとか、隊長業も楽では無いな。

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