黒幕になって全てを牛耳りたくて

T字路

第1話


 都内85階の超高層ビルのレストランにて、


「こちらが本日メインディッシュのA5ランク牛のステーキです。」


 そういい、料理を提供するシェフの目の前には、筋骨隆々で坊主の男。痩せ型で腰に刀を携えたチョンマゲの男。美しい黒のドレスに身を包んだ妖艶な美女。そしてその中心に黒髪の不気味な男、その不気味な男を守るように執事のような格好をした美男美女が1人ずつ後ろに立っていた。


「シェフ。ここまでの料理。大変素晴らしかった。」


 黒髪の男が今日初めて口を開いた。


「・・・ありがとうございます。」


 シェフはどこか怯えたようにそう返す。


「だからこそ、とても残念だ。・・・この肉、毒入りだろう?」


「・・・はっ?」

 なぜ分かった。そう言わんばかりに驚いたように目をシェフは見開いた。



 ピッ



 次の瞬間、シェフの首は痩せたチョンマゲの男によって跳ねられていた。



 ゴトッ



 シェフの生首が床に落ちる。



「おいおいおい!何やっているんだよトシゾー!殺したらどこの差金かわからねぇだろ!!」


 筋肉マッチョで坊主頭の男がシェフを切った侍に少し怒ったように言いよる。


「落ち着きなさいカツミ。クロウが裏で引いている人物もわからないのにトシゾーに斬らせることなんてしないわよ。ねぇ?クロウ?」


 クロウと呼ばれた不気味な男は後ろの執事服に身を包んだ男に少し目を向けた後


「やれ。」


 そう一言命令されると執事の男は瞬間移動したかのように消え、不気味な男から離れた視線の先で1人の男の首を掴んで持ち上げていた。



「なっ!!」



 執事の男が突然首を持ち上げたことによって出現した男にカツミは驚いたような声を上げた。


「カッ!コヒュッ!なぐぇばれたっ!!」

 首ねっこを掴まれた男は苦しそうにもがきながらクロウと呼ばれる男を睨みつける。


「・・・」

 クロウと呼ばれる不気味な男は何も言わずにナイフ一本を片手にゆっくり立ち上がり首を執事に掴まれ苦しそうにもがく男に近づいていった。



「や゛・・めぉ・・くぅなぁぁあ゛あ゛ぁ゛」

 男が近づいてくる不気味な男に微かに声をあげて抵抗した瞬間、首を掴んでいる執事の腕に力が加わり男はさらに苦しそうにもがく。



 トスッ



「うぐうぅぅうう!!!」



 男の目にナイフがたてられたことにより男はさらに苦しそうにもがく。



「・・・ゾハン。始末しておけ。」


「かしこまりました。」


 クロウが苦しむ男を横目に命令するとゾハンと呼ばれた執事は返事をし、恭しく一礼し、男と一緒にどこかへ消えてしまった。


「・・・クロウ何か分かったの?」

 クロウに妖艶な美女が尋ねる。


「あの男はどうやら金立会の差金らしい。」


「金立・・・あぁ、あの胡散臭い狸ジジィのところの組織ね。」

 美女はどこか思い出すように眉を顰めながら笑った。



「ボスッッッ!!!金立会のことは俺に任せてくれないか?」

 テーブルを強く叩き立ち上がりながら坊主頭のマッチョ、カツミが大きな声でクロウにそう言う。


「ボス。俺は忍んでいたあの男の存在に離れていたとはいえ気づけなかった。ここは名誉挽回として俺に行かせてくれないか?」


「・・・金立会の件はカツミに任せることにする。」


「ホントか!?恩に切るぜボス!!」


 そう言うとカツミはエレベーターに乗り込んで、ビルを降りていった。




「・・・まさか金立が裏切るとは思わなかったな。」

痩せた侍のトシゾーがボソッと口にする。


「まぁ、おそらく裏に他の組織がいるんだろうな。」


「裏の組織がいるなら突き止めなくてもいいのか?今から俺も行くか?」


トシゾーが謎の男に目配せしながら提案する


「いや、いい。どうせ証拠はないだろうからな。」

そう言いながらクロウは皿に置かれたステーキを一切れ手で持ち上げて口に入れる。


「全く、この程度の毒で俺を殺せると思っているとは・・舐められたものだな。」

クロウはそう言いながら呆れたようにため息を漏らす。


「ボス。これからどうするんだ?」


「まぁとりあえず様子見だね。大体の見当はついているけど。」




******



真っ黒な今にも夜の闇に溶けてしまいそうな高級車が一台ビルの前に止まっている。



ガチャ



「いやーありがとうゾハン。車、回してくれて。」


「いえ。お構いなく。」


「んっこれは?」


「事件のせいでデザートがなくなってしまったので代わりにクロウ様の好きなコンビニのスイーツを購入しておきました。」


「おいゾハン。クロウ様は先程まで高級ディナーを食していたんだぞ。そのデザートにこれを選ぶなんてあり得ない」


いつの間にか助手席に座っていた美女の秘書が運転席に座る執事服に身を包んだ男、ゾハンに向かってそう文句を言う。


「いや、別にいいよミカミ。俺、今こう言うのが食べたかったんだよ。ゾハンさすがだわ。」


「お褒めに預かり、光栄です。」


「。。ヌググ」

ミカミはその美しい顔を少し歪めて悔しがった。



コンコンコン   ガチャ。






「入るわね。」


車をノックし、そう言って入ってきたのは先ほどの会食にも参加していた妖艶な美女だった。


「・・・レイか。」


「私じゃダメなのかしら?」


レイと呼ばれる美女はそういうとシートに座るクロウと見つめ合う形でクロウの両脚に跨りクロウの首に両腕をまわした。


「レイ様、失礼ですよ。」

その光景を助手席でバックミラー越しに見ていたミカミは怪訝な表情でレイにそう注意する。


「・・・ねぇクロウ。そこの女がうるさいわ。殺してもいいかしら?」


「・・・聞き捨てなりませんね。先ほどからクロウ様と自分があたかも同等のように語っていますけども。」


「同等よ。」


「はぁ?」


「私とクロウは同等よ。」


「クロウ様はボス。レイ様は幹部です。立場を考えて下さい」


「立場じゃなくて実力の話。貴方さっきから一丁前のことを言っているけど私に文句を言いたいなら少なくともそこの運転手ぐらいの実力をつけてからにしなさい。」


「・・・いや 「うるさいわね。本当に殺すわよ。」


「・・・ッ」

レイの圧倒的なオーラにさらされミカミは怯む。


「・・レイそれ以上はやめてくれシャレにならない。」


レイの尋常じゃない殺気とオーラにクロウが止めに入る。


「まぁ今回はクロウに免じて殺さないでおいてあげるわ。感謝しなさい雌猫。」


「・・・」

ミカミは悔しそうに下唇を噛みながら押し黙った。



「あなたは知らないかもしれないけど、私とクロウは特別なのよ。」




____________


(レイ side)




私はずっと孤独だった。


ロザリア公爵家の長女として生まれた私は幼い頃から天才すぎた。


齢7歳にしてオーラを極めた私に取っては周りの大人たちですら一捻りで殺せる存在に過ぎなかった。


「レイは天才だな。陛下のご子息もお前に気があるようだし我が家は安泰だな。」


父はそう言う。


「レイは天才ね。母として誇らしいわ。」


母はそう言う。


「・・・ッチ」


兄は劣等感から私を嫌悪する。


「スゴいですおねぇさま!」


弟はそう言う。


「「「「レイ様は天才だな。」」」」


使用人たちは皆口を揃えてそう言う。


「レイっ!僕としょうらい、けっこんしよう!」


皇帝の息子は私の容姿に見惚れてそう言う。


「レイ様っ!綺麗なお花が取れました!」


我が家と懇意にしている家の娘は何かと私に突っかかってくる。


「凡人の気持ちなんてわからないんでしょうね。」


悔しそうに言ってくる者たち。


「見て媚び売り女よ。」


私が歩くたびにわざと聞こえるように言ってくる年上の女たち。



どいつもこいつも常に身分不相応なのだ。私が求めているのは常にそんな聞き慣れた凡人達の賛辞や嫉妬ではないのだ。


しかし、その求めていない賛辞は私が成長していくにつれ増えていった。

私が14歳になる頃には私に対する妬みはもはや誰も言えなくなり、賛辞だけに変わった。



「レイ。お前は本当に素晴らしいな。・・・本当に。」


父は金・権力・性その全てが詰まった目で私を舐め回すよう見ながらにそう言う。


「ふふふ。レイは良い子ね。」


母はそういう。


「・・・・。」


劣等感からか少しグレた兄は私に何も出来なくなった。


「・・・ねぇさん。」


弟も尊敬と憧れが混ざった声で私をそう呼ぶ。


「「「「レイ様今日も美しいわ。」」」」


メイドたちは私とすれ違うと皆そう言う。


「レイは僕と将来この国を統治していくのだからね。」


血筋しか特別なものはないのに偉ぶっている皇太子。


「レイ様凄いです!!」


努力をしない同級生が羨望の眼差しを私に向ける。


でも私が欲しいのはそんなあり触れたものじゃなかった。


誰も私と渡り合うことのできないことによる孤独。その毒が私を徐々に蝕んでいった。


「そろそろお前も落ち着きなさい。」


ある日父に呼び出されてそう伝えられた。


「お前は天才だが、皇太子・・将来の皇帝の妃になるのだから、家の恥になるような真似はするな。陛下を立て、陰で支えるのが妃の務めだ。」


父にそう言われた時私の中で何かが切れた気がする。


「・・・分かりました。」


私は平静を装ってただそう返事をした。


「失礼します。」


そう言って部屋を出ると、兄と弟が立っていた。

2人ともどこか安心したような顔をしていた。邪魔者がいなくなったそんな顔をしていた。


あぁ。この家は檻だ。


ロザリア=レイという猛獣をを閉じ込めるための檻なのだ。


父も兄も弟も私が何も言わないことにきっと安心したのだ。私を政治の道具として使えて。地位を脅かしかねない私を後継者争いから排除できて。


私が本気を出せばこんな家を崩壊させることなど容易いことだった。だが同時に私が1人になってしまう気がして恐ろしかった。


そんな気持ちを抱きながらしばらく生活をしていた。


ある日のことだった。

貴族たちの見栄のためのパーティの帰りのことだった。


家に帰る道、使用人に言って車から降ろしてもらい少しだけ歩いて帰ろうとしていた時に彼は現れた。


「こんばんは」


声がした方を見ると、誰もいない。

振り返るより速く、男は私の隣を歩いていた。


「・・・性格が悪いのね。」


男はわずかに肩を動かし、その真っ黒な視線を真っ直ぐ向ける。

「驚かないんだね。」


「無礼者が突然現れたくらいで、私は動じないわ。」


「なるほど。」


「……で、あなたは誰?」


「クロウ。」


「クロウ・・・であなたの目的は何?」


「君の力を借りたい。」


「はぁ。私の力を借りて何がしたいのかしら?」


「この世界を壊したい。」


「・・・幼稚ね。」


「わかっているさ。」


「変なの。」


歩きながら会話を続ける。

だが、その中で互いにオーラを練り上げる。


「君だってあるだろ。ロザリア=レイ。自分より劣っている人間が自分を使う現状に不満が。嫉妬する兄弟。夢だけを語る望まぬ婚約者。自分を道具として見る父。」


「・・・よく私のことを知ったふうに言うのね。」


「僕らは孤独じゃない。」


「えっ?」


「君を見た時に思ったんだよ。僕と同格の存在だって。」


「・・・。」


「この国にオーラを極めた人間は何人かいるけど。僕らほど若い人間は間違いなくいないだろう?」


「・・・。」


「君はこの手を受け取ってくれ。それだけでいい。」


考えるまでもなかった。


「・・・私のことはレイでいいわ。これからは仲間なのでしょう?」


「あぁ。よろしく頼むよ。レイ。」



「ところでクロウ。あなた仲間はどれぐらいいるの?」


「まともに戦えるのは俺とレイともう1人ゾハンっていう執事みたいなやつがいるよ。」


「少ないのね。」


「この間、弱い奴らは死んじゃったからね。」


「・・・何かあったの?」


「色々ね。」


「そう。」

私はそれ以上深く聞くのはやめておいた。

だが、あの日から私の心はクロウに奪われていた。



























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