第31話 幾つもの悲しみの連鎖

「星の王国と月の王国、そして地の王国は同盟関係にあった。太陽系にはこの三国だけが存在し、互いに不可侵、もしくは深入りはしないという約束のもとに共存していた」


 静かに語り始めた慧依さんの横で、優依さんが親子丼を半分食べ終わろうとしていた。慧依さん自身も、サンドイッチを手に持ちながらではあるけれど。何となくミスマッチで、だからこそ話を落ち着いて聞ける気がする。


「ある日、突然地の王国が星の王国と月の王国、両国へ同時に侵攻してきたんだ。当然両国は戸惑い、慌て、真正面から迎え撃った」

「どの国も武力は常に保持してあった。だから分散した地の王国軍をすぐに鎮圧出来る、と思っていたんだよな」


 しかし、それは甘い考えだったと両国は思い知らされる。シャリオちゃんが、小さな手を握り締めて目を伏せた。


「戦場は国民の居住地区にも広がり、人々は逃げ惑いました。建物は破壊され、多くの人々が命を落としました」

「魔法や剣が駆使され、四六時中気の休まる暇などなかった。オレたち月の王国は、王族も武力を持っていた。だから王子……シャリオが捜し、姫君と結婚することが決まっていた王子な。彼も戦場を駆けた」

「……王子も」


 夢月が眉間にしわを寄せる。その理由、この話の果てを想像してしまったからかもしれない。少なくともわたしはそうだった。


「……王子はその後どうなったんですか?」


 夢月の問いに、慧依さんが応じた。


「一人奮戦し、城を血の海で染めた。俺たちは王子を独りにして、別々の場所で敵を迎え撃っていたんだ。その結果、王子を戦の只中で死なせてしまった」

「死んだ……」


 うわごとのように呟く夢月。普段よりも顔色が白っぽく見えるのは、きっと気のせいじゃない。

 ドクンドクンと早鐘を打つ心臓は、緊張感で満たされている。わたしは声が震えそうになるのを懸命に堪えながら、慧依さんと優依さんに向かって尋ねてみた。もしかしたらこれは、お二人よりもシャリオちゃんが詳しいかもしれないと思いつつ。


「……星の王国はどうだったんですか? そちらも武力鎮圧を?」


 わたしの問いに答えたのは、やはりシャリオちゃんだった。


「月の王国程の武力を持たない星の王国は、追い詰められるスピードが月の王国よりも早かったのです。守りの力は三国の中で最も強かったはずでしたが、やがて王宮も地の王国の軍に侵入を許し、姫様は

「……最期までってことは、もしかして」


 シャリオちゃんの言葉に、わたしは胸の奥がざわめくのを感じた。嫌だ、聞きたくない。そんな思いとは裏腹に、聞かなくてはいけないという義務感もある。

 星の王国の姫君に何があったのか、という義務感。


「わたしは、丁度その時王妃様の傍にいました。侵略者によって殺された王妃様をお送りするべく、祈りをささげた直後のこと。姫様のいるはずの部屋から、複数の男の悲鳴が聞こえてきました」


 シャリオちゃんが何事かと飛び込めば、白かった普段着用ドレスを真っ赤に染めた姫君が立っていたとか。得意ではないながらも侵入者を返り討ちにし続けた姫君は、しかし肩で息をしていた。


「わたしが近付くと、姫様はようやく微笑んでくださいました。背に大切な友人でもあった女官を守って。そして、ごめんねと」

「何で……」

「もう、命の残りが少ないことを自覚なさっていたんです。見れば、背中に大きく深い切り傷がありましたから」

「……!」


 もしかしたら、早く傷の手当てをしていれば死ななかったかもしれない。魔法には治癒するものもあるのだから、間に合えば意味があった。

 けれど全ては手遅れで、シャリオちゃんの目の前で姫様は事切れた。


「それからわたしは戦争の終結と後処理を見届け、生まれ変わりを信じて眠りに……美星様?」

「え……?」

「顔色が、悪いですよ? だいじょ……」

「――美星!?」


 心臓がやけにドクドクと早鐘を打つと思っていた。何となく視界がぶれるなと思った時には遅く、わたしは気を失った。誰かが受け止めてくれたような気がしたけれど、確かめる術はない。


 ❁


 美星が倒れ、俺はそれを抱き止めた。


「美星! 美星!?」


 真っ青な顔色に不安を煽られ、俺は懸命に美星の名前を呼ぶ。だけど、反応がない。


「どうしよう……、俺は……」

「落ち着いてください、夢月様。大丈夫、気を失ってるだけですよ」

「シャリオ……」


 シャリオに肩を叩かれて、俺はようやくまともに息をした。過呼吸になったことはないけれど、体がやけに寒い。


「夢月、きみも休んだ方が良い。後ろの壁に背中を預けて」

「個室でよかった。座布団いるか?」

「あ、ありがとうございます……」


 そういえば、ここは和室だった。俺は壁に背中を預け、美星を寝かせる。少し考えて、部屋の狭さもあって彼女の頭を俺の膝に乗せた。……別にやましい考えはない。しんどそうであれば、座布団に切り替えるだけだ。


「……少し、ショッキングな話をし過ぎたか」

「いえ。話して欲しいと言ったのは俺たちなので、大丈夫です。思った以上だった、というよりは……」


 心がキャパオーバーを起こしたような、悲鳴を上げたようなイメージだ。俺の中の何かがきしんで、体の状態にまで影響を及ぼした。

 俺の顔色も良くないのだろう。血の気が引いている気がする。息をつき、天井を見あげた。その時、ぽつりと呟きが耳に入る。


「……もう少しなのかもな」

「え?」

「もうすぐわかるさ。な、シャリオ?」

「……そうかもしれません」


 優依さんに問われ、シャリオが頷く。一体何がもうすぐなのだろうか。


(……ダメだ。今は考えがまとまらない)


 俺は優依さんと慧依さんに断り、少しの間と思って目を閉じた。


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