『花の終焉に、君を想う』

諏訪彼方

異変

 夜の帳が静かに降りる。部屋の隅に置かれたスタンドライトだけが灯り机に開いた教科書の文字を淡く浮かび上がらせていた。

 高校二年の瑠奈は、ページに視線を落としながら、唇を噛みしめていた。頭に入らない数式や歴史の年代が苦しいのではない。喉の奥に迫る、得体の知れない圧迫感が彼女を追い詰めていたのだ。


 そしてしばらく経って…

 ――何かが、来る。

 胸の奥を掻きむしるような痛みに、咄嗟に口元を押さえる。次の瞬間、込み上げてきたものを堪えきれずベッド脇に置いてあった白いハンカチへと吐き出した。


 紅色の花弁がひとひら零れ落ちる。薔薇に似た小さな花だった。


 指先で触れてみる。ひんやりとして、でもどこか温かい感触。混乱と恐怖で頭が真っ白になる。


「花……? なんで……?」

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