ドライブーー殺されるかと思った

満月 花

第1話



色鮮やかな紅葉が窓の向こうで流れていく。

空も晴れ渡りドライブ日和だ。


今日はデート。

付き合って2ヶ月。


合コンで意気投合して連絡先を交換して

お付き合いが始まった。


お互い、頭数要員として合コンに駆り出され

場違いでノリの悪さも自覚して

二人でその時間を乗り越えた。


誠実で優しい人柄にどんどん惹かれている。

県を跨いで住んでいる私をいつも車で送迎してくれる。


無言の時間も居心地が良い。


アミューズメントとランチを楽しんで

彼が私を送ってくれる。


ここは前も来た土地なのであと1時間半ぐらいで最寄りの駅に着くだろう。

助手席で移りゆく景色を愛でながら、ふと違和感に気づく。


車はいつのまにか国道を外れて、山道へと進んで行く。


え?何この場所、疑問に思って運転する彼に問いかけようとするが、

その表情に言葉が止まる。


ーー見た事のない緊張して強張っている顔。


声をかける雰囲気ではない。


重苦しい空気が車内に漂う。


車はどんどん深い森へと入っていく。



これ、ヤバくない?


……もしかして私、殺される?


よくドラマであるシチュエーション。

人里離れた山奥に邪魔な女を埋める。


冷たくなって横たわる私に土が掛けられていく……。


浮かんでくる妄想を懸命に打ち払う。

そんな事あるわけない、こんな優しい人がそんなわけ。

気付かれないように横目で彼を見ると

さっきよりも怖い、いや恐ろしいと言っていいくらい

何かを思い詰めてるような、そんな表情だった。


付き合い始めて日が浅い。

まだ誰も私達が交際している事は知らない。

友達にも家族にも紹介してない微妙な時期だった。


なので、彼を私との接点を結ぶのは難しい。

あの時の合コン仲間だって伝えていない。


どうしようかなぁ。


なんとかこの事態を打破出来る方法。


ハンドルをぐいっと引っ張る?

ーーイヤイヤ、危ない。

止まった時に運転席から突き落として車を奪って逃げる?

ーーペーパードライバーにそんな事できるだろうか?

外に飛び出して逃げる?

ーーこんな山道だ。おまけに今日の靴はヒール、すぐ捕まるだろう。

精いっぱい反撃を試みる?

ーー所詮、女だ。やる前にやられるに決まってる。


何か武器になるような物はないか?

このハンドバッグを振り回すぐらいしかない。


どう考えてもこの最悪な状況を逆転する要素がない。


黙ってやられるのは嫌だ。

致命傷になるくらいの傷を残すとか、証拠を飲み込むとか

そういうこと出来たらいいのに。


助手席であれこれ考えていると

いきなり車がバックし始めた。

すごい速さで元来た道を戻っていく。

助手席の背もたれに片腕を乗せて後ろを確認しながら彼がハンドルをさばいていく。


やがて車は大きな道へと軌道修正した。


心持ち彼の顔が穏やかになっている。


あんなに緊迫した車内の雰囲気は何処へやら、

彼が喉は乾いてないか?と気軽に聞いてくる。


私はハンドバッグの持ち手をグッと握り締めながら

不自然なほどに明るく切り出す。


「いやー、私、殺されちゃうかと思ったよ!」


その言葉に彼が驚愕する。

オロオロと、どうして?と聞いてくる。


私は先ほどの不審な行動への思いを伝えた。


「違うよ、違う!道に迷ったんだ!」


彼は地元の人に抜け道を教えてもらったらしい。

地元の人しか知らない、その道を使えばかなり時間を短縮出来るらしい。

そしたらもっと一緒にいる時間が増える。

上手く抜けて喜んでもらおうと思ったのに。


まさかあんなに不安にさせるとは思わなかった。

抜け道に自信なかったから、言えなかった。


何度も謝ってくれた。


そして二人で大笑いした。



そんな事思ってるとは思わなかった。


怖い顔して山奥に入っていくんだもん!


あの時、ほんとにハンドバッグ振り回す準備してたんだからね?


……マジで?


そういう彼は少しばかり顔が青ざめていた。






私達は付き合いを順調に続けていった。




でも、あれ以来彼はドライブの度にこれから行く道の報告をするようになった。

私は笑顔で頷く。


とても幸せ。


今では、その彼は“夫”になりました。


ドライブは、今も変わらず二人の大切な時間です。









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ドライブーー殺されるかと思った 満月 花 @aoihanastory

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