第7話仮拠点整備

 

 翌朝、洞窟を出ると、その岩人形はすでに俺の足元でピタリと止まっていた。一晩中、俺の隣で待っていたのだろうか。


「お前、そんなに賢いのか?」


 俺がそう呟くと、岩人形はわずかに首を傾げたように見えた。その日、俺は岩人形を連れて森を歩いた。すると、俺が目をつけた薬草に先回りして、手際よく採取してくれる。そして、マジックバックに収穫すると、魔法を込めるわけでもないのに、まるでAI付きロボットのように、次の目的地に繋がる道を示すように前に進み始める。


 岩人形は、岩の多い場所では採掘を開始し、まるで宝の地図を知っているかのように、鉱石を見つけては俺の足元に持ってきてくれた。その行動は、俺が何を欲しているのかを正確に理解しているかのようだった。


「こいつ、思ったよりも使える奴だ…」


 ゴーレム製造に失敗したとばかり思っていたが、どうやらそうではなかったらしい。この小さな岩人形は、戦闘には向かないかもしれないが、資材採取や探索において、これ以上ないほど有能な相棒だった。


「よし、これからお前は俺の相棒だ」


 俺がそう言うと、岩人形は再びかすかに震え、その岩の表面が少しだけ滑らかになったように感じた。マジックバックの力なのか、それとも俺の魔力が影響しているのか。いずれにせよ、この新たな相棒と力を合わせれば、この世界での生活はさらに安泰になるだろう。


 俺は岩人形に「マナ・クリスタル」を与えてみた。すると、岩人形は一瞬輝き、その動きがさらに機敏になった。どうやら、俺と同じように魔力を吸収し、能力を向上させることができるようだ。


「こいつをうまく使えば、もっと効率的に資源を集められるかもしれない」


 俺は新たな可能性に胸を膨らませた。この小さな相棒とともに、俺の冒険はさらに加速していく。


 そして翌日、俺が目覚めると、岩人形はすでに姿を消していた。嫌われたのかと焦ったが、その日の夕方、岩人形は口にくわえた魔石を俺の前に差し出した。どうやら、俺が寝ている間に魔物を狩り、その魔石を回収してきてくれたようだ。


 俺はマジックバックから岩人形の魔石を取り出し、回収してきた魔石とマジックバックに入れた。すると、マジックバックが淡く光り、またしても不格好な小さな岩人形が転がり出てきた。


「こいつ…まるで自身のクローンを生み出すみたいだな」


 小さな岩人形は、俺の相棒となった岩人形のミニチュア版のようだった。新たな岩人形は、元々の岩人形の指示に従うように、森の奥へと走り出した。どうやら、俺の相棒は俺の知らない間に、着々と仲間を増やしているらしい。


 小さなゴーレム軍団を率いて、俺は仮拠点としている滝の裏側の洞窟へと向かった。洞窟は、これまで俺が持ち込んだ資材でごった返しており、手つかずの状態だった。


「お前たち、この洞窟を整理してくれ」


 俺がそう指示すると、2体の岩人形は瞬時に動き出した。元の岩人形がまるで監督官のように動きを指示し、もう一体がそれに従う。彼らはまず、洞窟の入り口から大きな岩を運び出し、通路を確保した。次に、散乱していた木材や枯れ葉を素早くマジックバックに収納していく。その動きは迷いがなく、無駄が一切ない。


 俺は、岩人形たちがどれほどの知能を持っているのか測りかねていた。彼らは、ただの道具ではない。俺の意図を正確に理解し、自律的に行動する、まさに相棒だった。


 日が暮れる頃には、洞窟は見違えるほどきれいになっていた。床は平らにならされ、壁には段差が作られて、資材を置く場所ができていた。中央には焚き火のためのスペースまで用意されており、完璧な拠点となっていた。


「すごいな、お前たち…」


 俺は感嘆の声を漏らす。たった2体でこれほどの作業をこなすとは。もし、このゴーレム軍団が増えていけば、この世界でできないことなどないのではないか。俺は、岩人形たちの可能性に、改めて胸を高鳴らせた。


 さらに仮拠点の安全性を高めるため、俺は岩人形の軍団に護衛ゴーレムのクローンを作るよう指示を出した。俺の相棒は俺の言葉を理解し、その日から、夜になると魔石を求めて森の奥へと向かうようになった。次の日、そしてまた次の日と、ゴーレムたちは次々と新たなクローンを生み出し、拠点の入り口に整然と並び始めた。


 生まれたばかりのゴーレムは、最初は少し不安定な動きをしていたが、徐々に元のゴーレムと同じように、機敏に動くようになっていった。彼らは、俺が特別な指示を出さなくても、洞窟の周囲を警戒し、不審な気配を感じ取ると、一斉に威嚇の姿勢をとる。小さな体から発せられる威圧感は、とても無視できるものではなかった。


 もはや、この洞窟は俺だけの秘密基地ではなく、小さなゴーレムたちによって守られた難攻不落の要塞と化していた。俺は、この世界で生き抜くための確固たる足場を手に入れたのだ。


 ふと、ゴーレムのむき出しの核が、それぞれ異なる色を帯びていることに気づいた。赤や青、そして俺の魔石と同じく黄色に光るものもある。どうやら、魔石の属性によって、生まれるゴーレムにも特性があるようだ。


 俺は、新たに生まれたゴーレムたちの中から、土色の核を持つものだけを呼び寄せた。彼らは、魔石の色が示す通り、土属性の力を帯びているらしい。俺は彼らに、この洞窟を拡張するよう指示した。


 岩人形たちは、俺の言葉を理解すると、その小さな体からは想像もできないほどの力で、洞窟の壁や床を掘り進め始めた。硬い岩盤も、彼らにかかればまるで砂のように崩れ落ちていく。掘り出した岩は、まるで彫刻のように正確に切り出され、新たな壁や通路の土台として積み上げられていく。


 洞窟の奥へと続く通路は広げられ、寝床や資材置き場、そして作業場となるスペースが次々と作られていく。ゴーレムたちは休むことなく働き続け、洞窟はみるみるうちに、広くて快適な居住空間へと姿を変えていった。


 俺は、ゴーレムたちの驚くべき能力に改めて感嘆した。彼らは、単なる道具ではない。俺の意図を理解し、その能力を最大限に活かして、俺の生活を支えてくれる、頼もしい仲間だ。この土属性のゴーレムたちがいれば、この先、どんな過酷な環境でも、安全な拠点を作り上げることができるだろう。


 火属性はファイアボールが、水属性はウォータージェットが、風属性はウインドカッターが、土属性はストーンバレットがそして雷属性はサンダーの魔法が使えるようになっていた。


 俺は、仮拠点を中心に広範囲に魔物の討伐を指示した。ゴーレムたちは、それぞれが持つ属性魔法を駆使して、森の奥深くへと散っていく。火属性のゴーレムは、炎を纏いながら敵を焼き払い、水属性は水の刃で敵を切り裂く。風属性は素早い動きで敵を翻弄し、土属性は岩石の弾丸を連射して敵を粉砕する。そして、雷属性のゴーレムは、俺の雷魔法と同じく、強力な雷撃で敵を仕留めていった。


 ゴーレムたちの活動範囲が広がるにつれて、拠点周辺の魔物の数はみるみるうちに減少していった。危険な咆哮も聞こえなくなり、静かな夜が訪れる。朝になると、ゴーレムたちは新たな魔石を手に、俺の元へと戻ってくる。その魔石は、また新たなゴーレムを生み出すための材料となる。


 俺はゴーレムたちの進化を目の当たりにしながら、この世界での生活が、以前とは比べ物にならないほど安全で快適なものになったことを実感した。もはや、俺は一人ではない。それぞれの能力を持つ頼もしい仲間たちが、俺の生活を、そして冒険を支えてくれている。

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