第2話 最終破壊の足音

 キッチンから、香ばしい匂いが漂ってくる。

 サラは手際よく食事の準備をしていた。食卓には、レオンの好物であるハーブチキンが並ぶ。温かいスープを器に注ぎながら、サラはため息をついた。

「今日のニュース見た?」

 チキンをナイフで器用に切りながらサラは話す。

 レオンは、ちらりと妻のほうに視線を向けた。

「ああ、あの声明だろう?」

「そう。テロリストによる核攻撃。それは戦争を終わらせるどころか、世界大戦に突入させる可能性が高いわ。そうなれば、完全な最終破壊になる」

 サラの瞳には、不安と焦りがにじんでいた。彼女は優秀なシンクタンク職員だが、恐怖を隠しきれないようだ。

 レオンは、その様子を見て、彼女が単なる『ゲーム音痴な甘えん坊の妻』ではないことを知る。

「それが現実になる可能性は何割だ?」

 サラはとまどったが、冷静に考えて答えた。

「……90%」

 レオンは、その言葉を聞き、過去の記憶が蘇る。

 かつて特殊部隊に所属していた頃、作戦成功の確率が90%以上でなければ、任務は実行されなかった。しかし、その90%の裏には、必ず10%の失敗の可能性がある。その10%が、多くの仲間たちの命を奪ってきた。

「もういい。お前はそれ以上考えるな」

 チキンを食べ終えたレオンは、優しくサラの肩を抱き寄せる。

「俺がなんとかする」

「えっ?」

 レオンはサラを安心させると、リビングから書斎へ向かった。書斎のデスクの引き出しの奥から、古い携帯電話を取り出す。それは、軍に所属していた頃に仲間との連絡用に使っていた、いわゆる「ブラックボックス」と呼ばれる特殊な端末だ。電源を入れると、画面には古びたエンブレムが表示される。

 彼は迷わず一番上に登録されている連絡先をタップした。

 呼び出し音は数回鳴り、ようやく相手が出た。

「もしもし、レオナルドだ」

「……レオン? まさかお前が生きていたとはな」

 電話の向こうから聞こえてきたのは、かつての戦友、ライアンの声だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る