行ったら楽しい懇談会
みとしろ
第1話 懇談会って楽しくないですか?
下の子が入園、上の子が進級してから初めて全体懇談会に行って来た。ちょっと楽しかったので聞いて欲しい。その日は仕事の関係で遅れての参加になってしまった。
ホールに入ると先生がお人形さんを抱っこしてわらべ歌で遊んでいる最中だった。急いで来たけどもう他の人に遅れをとってしまった。子供が保育園でどんな事をやっているか、ものすごく興味があるのだ。お迎えに行くとテンション高めで興奮している時があるのはなぜなのかが知れるかもしれないからだ。
自分は小学校の頃の事は何となく覚えているけど、保育園では何をしていたかなんて覚えてもいない。朝の会で仏様にお参りをする時に手を合わせて目を瞑ると、そのまま寝てしまって先生に怒られた記憶がぼんやーーりとある程度だ。
ただ一つ言えることは、こんな風に先生に抱っこされてわらべ歌を歌ってもらった記憶は全くない。
私は26歳で結婚してから約10年間は子供が全く欲しくなかった。子供が嫌いという訳ではないが当時の自分の人生に置いて子供を産みたいという選択肢がなかった。仕事もそれなりに順調で役職にも就いてお酒が大好きで毎晩飲んでいた。自分の稼ぎで好きにやっているので旦那も特に何も言わない。猫も3匹居て自由気ままに過ごす事が幸せだった。
けれど30代の半ば過ぎた辺りで何故か急に母性が芽生えてしまった。それは本当に突然にポンっと生まれてその後は湧き水の様に滾々と溢れて来た。その時私は既に、自然妊娠出来る身体ではなかったので不妊治療に励み可愛い可愛い子供を授かれた。
毎晩酒を飲み、朝方に寝る様な生活をしていたあの頃が嘘の様だ。今は朝5時頃に起きて子供の朝食を作り自転車に子供を2人乗せて通勤ラッシュの時間に動いている。お酒も全く飲んでいない。人間、変わろうと思えば変われるのだなと自分に感心した。
そして今、私は保育園の懇談会に保護者として出席している。この自分の変化にスタンディングオベーションを送りたい。
次の懇談会の内容は幼児クラスで行われている体操を実践した。まあ、産後体重が戻らないが幼児クラスで行われている体操くらいなら出来るだろう。立ち仕事だし、家にあるフィットネスバイクにたまに跨り漕ぎ漕ぎしているから体力には自信がある。
初めに太もも太鼓という体操をした。立ったまま靴下を履くイメージだ。これはちょっとグラグラしながらもクリア出来た。次はオットセイのポーズだ。ヨガに似たようなポーズがある。ヨガは子供が出来る前にずっとやっていたので簡単だなと余裕の表情を一人で浮かべた。
ところが、全然ダメだった(汗)なぜかは分からないが他の方より明らかに身体が上がっていなかった。いや、こんな難しい事を幼児が出来るの!?と思ってしまった。今の保育園はきつい事をさせるなぁと思っていたら、実際にクラスの子供がやっている写真がスクリーンに映し出された。子供の背筋はきちんと伸びていて、今いる保護者の誰より美しいポーズで出来ていた。この時に思った事は若さとはすばらしいという事だ。
でもそんなこんなで身体が少しほぐされた感じがあり血流が良くなると楽しくなった。
そして次の遊びだ。先生の誘導で保護者は全員立ち上がり保護者で大きな一つの円になった。子供たちがやる時は手を繋ぐ様だが保護者はエアーでやるみたいだ。いや、私は別に繋いでも良かったけど…なんて思う程に可愛らしいママさんが隣だった。下の子と同じ0歳児クラスのママさんだ。とにかく若い。可愛い。羨ましい。
まあ、それはいいとして「かわのきしの」というわらべ歌に合わせて右回りに回る。先生が言った人数と同じ人数で組になり座るという遊びだ。「二人」と言われた時は隣の人とは組めないというちょっと難易度が高かった。私は内心、うーん。これ楽しいのか?とちょっと冷めていた。……のですが!この遊び、めちゃくちゃ面白かった。恐らく、他の保護者の方も楽しかっただろうなと思う位に盛り上がっていた。私が印象的だったのが5人と言われた時、すごく真面目そうなパパさんが一生懸命に組める人を探して見つかった時に楽しそうにしてた事だ。あの時の私達はきっと小さい頃に戻っていた。
我が子はまだこの遊びが出来る年齢ではないが、私の想像では誰よりもこの遊びを楽しんで居る姿が目に浮かぶ。そう。今日の私の様に。
中々、侮れないな、わらべ歌。
次の遊びの「魔法の袋」
代表者が袋の中に手を入れて、袋の中に入っている物の特徴を他の人に伝えて、その袋の中の物を当てる遊び。その代表者も袋の中に何が入っているのかは分からない。
これはよくあるゲームだと思った。その時の袋の中身は“歯ブラシ”だったのだが私は自信満々で「筆」だと思った。
◎細い棒
◎先に毛がある
◎みんな使う
という様な物。用途については言ってはいけないルールなので案外難しい。
棒の先に毛なんて筆以外に何があるんだと思っていたら答えは何と「歯ブラシ」だった。まさかの間違いに「挙手してまで答えなくて良かった。」と安堵のため息が出た。己の視野の狭さにまだまだだなと反省した。この遊びもとても楽しかった。大人達が真剣に当てに行くのが良かった。早くこの遊びが出来る位に子供とコミュニケーションが取れる様になりたい。うちの子供は周りの子供より少しだけ言葉が遅い。お友達の名前も余り話さず、自分と妹の名前が同じに聞こえる。宇宙語が会話の約7割を占めている。
いつも「ゴニョニョ〇×△;~」と何か独り言を言ってる。
この前、ご飯の用意をしていたらしきりに「ゴニョニョゴニョニョ~」と宇宙語で話しかけて来た。
「はいはい~。」「そうなんだ!」
と私はまたいつもの事かなと、取り合えず相槌を打っていると
「開いてるよ!」
とプンプン怒った顔で冷蔵庫を指さしハッキリと大きな声で言って来た。私はそれこそ鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしていただろう。
家の冷蔵庫は、扉を開けっ放しにすると「ピーピー」と音が鳴る。私はその音に気付いてなかったので子供が教えてくれたのだ。
その時私は「コイツ、もしや普通に話せるのではないか?」と疑念を抱いてしまった。
だけれど、その後は相変わらず宇宙語7割でおしゃべりしている。
ふと思い出したのは祖母が去年の11月に亡くなったのだが、認知が進行し、冷蔵庫がよく開けっ放しになっていて「ピーピー」と音が鳴っていた。認知になる前は私が少し長く冷蔵庫を開けて中身を確認してると「電気代のもったいなか!」とよく怒られていた。もしや祖母が一瞬我が子に乗り移ったのではないかという考えも頭をよぎった。
「それならばーちゃん。もっと喋れるようにしてくれないか。」
と思いながらご飯の準備を進めた。
早くこの「魔法の袋」が出来る程になって欲しいものだけど、今の可愛い宇宙語も愛でていたい。
そしてなんと私は次の遊びで禁忌を犯してしまう。
それは「いっぷくたっぷく」というわらべ歌を聴いてそのイメージの絵を描くというものだ。
私は条件反射で禁断のスマホで「いっぷくたっぷく」を調べてしまった。この一連の流れはもう止める事が出来なかった。というよりも無意識に近かった。
そして禁忌を犯してまで検索して出た答えは「意味は特にない」だった。
ただ、ズルをしただけの人になっていた。
いっぷく
たっぷく
たびらか
もっぱい
おんろく
ちんぴん
しきしき
ごっけん
つるりん
どん
これがいっぷくたっぷくのわらべ歌だ。
私はスマホでインチキ検索をしてしまいもう何も頭に浮かんで来なかった。
「意味がない」
という検索結果に囚われてイメージが浮かばないのだ!私はもう考えるのをスパッと諦めて他の保護者の方のイメージの絵に期待した。
一番初めに披露した方の絵はよく見えなかったのだが説明で「いっぷくたっぷく」
という響きで泡をイメージしたと仰っていた。素晴らしい!もうその一言に尽きる。それなのに私と来たらなんという恥ずかしい事をしてしまったのだ!と猛反省した。
他の保護者の方の絵もとても個性的でよかった。個人的に好きだったのは毛虫みたいな絵だった。8名の方が描いていて7名は丸い何かがフワフワしている様なイメージの絵が多い中で毛虫の様に見える絵が目を引いた。
園児の絵も紹介されたのだが、こちらも大人に負けず劣らず…いや寧ろ大人よりもよく描けてると思える程に素敵な絵だった。緑の山道を黒い丸い玉がコロコロと転がっていく様子が描かれていた。あの歌でよくぞここまでイメージを膨らませる事ができるものだなあと感心した。
私はこの経験で自分の卑怯さを知る事ができてとても勉強になった。子供の前にまず自分がしっかりしないといけない事を再認識した。子供はいつだって私の行動を見てるはず。今日この懇談会の遊びで人として大事なとこに気付いた。感謝しないといけないな。
後は栄養士さんからの歯のお話だ。
我が子は残念ながらクチャラーだ。煎餅を食べてもおにぎりを食べてもチョコレートを食べてもクチャクチャと音を立てて食べている。私もアレルギー性鼻炎で鼻が詰まっている時に音を立てて食べている時がある。私に似てしまったのかなと心配していた。この子が年頃になって恋人とデートをした時にクチャラーという事でフラれたりしないだろうか。なんて考えていた。
栄養士さんの説明によると大人は食べ物を前歯で嚙みちぎり奥歯ですり潰し、舌で丸めて飲み込む。
大人と同じように上手に食べる子も居れば、なかにはこぼしが多いもいて、こぼしが多い子供は口が開いた状態で奥歯でそのまま噛み、口を開けながらクチャクチャ噛むみたいだ。なのでボロボロとこぼしてしまう。まだ口の周りの筋肉も発達していないし、まだ口を閉じて噛む事がマナーだとは知らないからだ。
我が子は誰に似たのか何故か小食だ。楽しく食べている所にあんまり注意して、もっと食べるのが嫌になってしまうのは避けたい。そこで私はきゅうりステックを作り子供に「こうやって噛むんだよ」とモグモグしてみせた。すると子供は楽しそうに私の真似をしてモグモグ食べてくれる。無理のない範囲で楽しく食卓を囲みながら、上手に食べる様になればいいかなと思う。
あとクチャラーが私譲りではないという事が分かってちょっと安心した。
こんな流れで保育園の全体懇談会は終了した。遊びはとても楽しかった。子供がお迎えの時にテンションが高い理由がなんとなく分かった気がする。
実は私は子供には早期教育を考えている。英語、水泳、体操、色んな習い事の資料を集めて調べている。わらべ歌での遊びもいいけど、やはり勉強も手を抜きたくない。
2歳の上の子は他の子に比べて圧倒的に喋らない。そして他の子の様にお友達のパパやママに話しかけたりなどのコミュニケーション能力が皆無だ。
私も色々話しかけてるつもりだけどまだまだコミュニケーションが足りないのかなと悩んでいる。
家から徒歩でも通える場所に外国の先生と直接お話が出来る英会話スクールがあるのでとりあえずそこに行こうと考えている。人見知りもなくなって英語も覚えてくれればと期待してスクールを子供と覗いてみたが全然、興味はなさそうだったが。
まあ、でもせっかく懇談会に出てわらべ歌の遊びも体験したから子供と一緒にやってみようと思いネットで調べた。途中参加した時に先生がやっていた「かってこかってこ」のわらべ歌をやってみた。YouTubeで見ると大人の足の上に子供の足を乗せて手を握り歩いていたのでちょっとやってみた。
するとなんと子供は物凄く楽しそうに笑いながら
「おーっかい!」
と言って来た。初めは何言ってるんだ?と思ったが
「おーっかい!おーっかい!ママ!おーっかい!」
と人差し指をピンと立てて言ってきた。
それは「もう一回!」という事だった。それまでは宇宙語をゴニョニョゴニョニョと言ってるばっかりで心配していたが、すごく楽しそうに笑いながら遊ぶ姿をみて涙が出て来た。もう一回やってあげるとまた「おーっかい!」と言って来る。
私はその瞬間、英語、体操、水泳の習い事はマダマダ先でいいやと思った。
習い事に行っている時間があるならその時間分、私がいっぱい遊んであげればいいと思えた。
こんなに楽しそうに私と遊んでくれる時期なんてきっと直ぐに過ぎ去ってしまうのだから目一杯遊んであげようと決めたのだ。
楽しそうに「おーっかい!」と笑っている我が子を見てると、全体懇談会で体験した事を実践した自分にスタンディングオベーションを送ってあげたい。
行ったら楽しい懇談会 みとしろ @itinoi
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