【9冊目】『35年ローンで買った小説』
皆さんは人生の大きな買い物といえば何を思い浮かべるだろうか。
おそらくは大抵の人が、家であったり、車であったり、大型家電であったりするんじゃないだろうか。
僕の場合は少し違う。このたび、大きな(とにかく大きな)小説を買った。
念願のマイノベルだ。
よく聞く話で、もともと裕福な家に生まれ育ったために大人になってもまったく物欲が湧かなくてお金を使えないというなんとも幸せな人がいる的なのがあるが、もちろん僕はそれには当たらない。普段の購買行動もごく一般的である。
そもそも、35年ローンで小説を買おうと言ったのは僕の妻なのだ。
妻は小さい頃はよくシルバニアファミリーで遊んでいたそうだ。そんな妻が“家より小説の方がいい”と言ってくれた。
まず知っておいて欲しいのは、小説ローンの融資実行日は、融資金額が口座に入金される日を示すということだ。
金融機関と小説ローンの契約(金銭消費貸借契約)を結んだ後、実際に融資が実行され、資金を受け取る日を指すと覚えておいて欲しい。
原則としては、融資実行日には、売買代金の全額を支払って引き渡しが行われ、小説の所有権移転(保存)登記と抵当権設定登記がすべて同日に行われることになる。
向かいに座る融資担当の方が、必要書類にひとつづつハンコをついている僕ら夫婦に「いい買い物なさりましたね」と小声で言ってくれた。
実際、大きな小説を作っている会社をいくつも回り、小説士さんとも何度も面談して決めた物件だ。
「なんだか夢みたい」と妻は目を潤ませた。
「きっと今が初夢なんだよ」と僕。
これから35年間、1億ページを毎月共読みで決められたページずつ読んでいく。
できれば繰り上げ読了できるように頑張りたい。
「本当にマイホームじゃなくていいんだね」
僕は妻に初めてそう尋ねた。
「ええ、だって、家を買ってしまったら、家と一緒に暮らさなきゃでしょ。でも小説だと読み終わるまでずっとあなたと一緒に暮らせるわ」
妻は応接テーブルの下で手を重ねてくれた。
僕はそんな妻を愛してやまない。
「必ず君と幸せに読むよ」
まだあと35年も一緒に読める。
終
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