14

「…あと何聞きたい?、カガシマ」

「……この姿で、どうして私だって解るんですか」

 砂漠の女王は、気まずそうに長い尾で砂を払う。砂嵐が舞い上がって、すぐに収まった。


「いやぁ、よく思い出したらちょいちょい引っかかるところあったわ」

 龍の国に詳しかったり、龍語に堪能だったり、聞いただけの話や習っただけの技術で済ませるには無理があった。


「すぐ近くの群れに女王が観測されないのも、女王の変換期で不在が続いてんのかと思ってた。お前が女王だったんだな」

 そういうこともあるかという偶然は、いくつも重なるものではない。レプタは己の度を越した鈍さを恥じた。だからといって、こうして本龍が出てこない限りわかるわけもないが。


「いつ統治してたのよ」

「あの、定時で帰れたときの夜中とかに、ちょこっと顔出してすぐ帰ってました」

「それで幻、か。通報もされないから誰にも気づかれなかったわけだ」


「………じゃあ、戻りましょうか!ね!」

「いいえ、こいつらを殺さないと」

「ダメか~」


 レプタの平和的な提案を、リンは切って捨てた。やられ役たちは砂に浮かびながら話を聞いていた。ここから安全に離れられるものだと信じていたのに、凍り付く空気に震えあがる。


「何故、止めるんです。密猟者を許すわけにいかないでしょう」

「ここでゴー出せる人間はいないだろ。お前が本気になればこいつらどころか、止めた俺も船ごと粉々。『殺さないでくださいお願いします』しか言えねえ」

 女王の殺意に、愚かな人間は救いを求めることしかできない。レプタは逃げたい気持ちと、逃げたとてという冷静さから口が回りだす。


「お前こそ、今全部ぶっ壊したって余裕で勝てるぞ。俺ももう魔力も無いし武装も積んでない。何で呑気にお喋りなんかしてんだ?」

「…それは…」

 問いかけに、龍の瞳孔が縦に細くなる。


「密猟者は俺たちが、人間がなんとかケリつけるよ。確保に協力してくれてありがとう、…後は、俺たちに預けてくれないかな」

 レプタは何とか唇を笑みの形に持って行った。引きつっていてかなり不格好な自覚はあったが、伝えたい言葉だけは伝えたと信じたい。


「……、よろしく、お願いします」

 龍の女王は目を伏せ、こうべを垂れる。その光景に、砂面から歓声が上がった。とりあえずこの場で砂に沈み、蘇生の為の遺体も拾われないという事態は免れられた。


「先輩…!さすがです、信じてましたよ、先輩!」

「おう」

 バットが目を潤ませる。龍との会話を終えてこちらに近づいてきたレプタに手を伸ばし、引き上げてもらうのを待った。


「タカモリ」

「先輩!、早く助け」

「なあ、タカモリ」


 バットは戸惑う。こちらの言葉を遮る勢いで名前を呼ばれ、一旦その続きを待った。

 月明りと船のライトが逆光になって見えにくかったが、砂面を見下ろすレプタの目は、大事な後輩を助けに来た人物のそれではない。容疑者を問い詰める目だった。


 リンに殺させなかったのは、ただの人命救助の為だけではない。人間の不始末を、人間が裁くためだ。


「お前、備品のハンドガンくすねてモデルガンにすり替えただろ。返せよ」


 バットは硬直して、「…あの、壊れ、その、…沈んじゃって…」と途切れ途切れの言い訳を口にした。


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