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「タカモリさん、情報を横流ししていたんですか。コンプライアンス研修も受けましたよね、情報漏洩は重罪だって」
「もう辞めたんだけどな、お説教するタイプだったんだ?。話したこともないから初めて知ったよ」
銃口を向けた者同士の会話が始まる。AからCは割り込む度胸もなく、必死で時機を見ている。
「今ならまだ間に合います。ここで緊急通報をすれば、保全部隊の拠点にこの位置が発覚します。大人しく自首を…」
「…!!」
通報、保全部隊、自首。その言葉にCが震えあがる。
自分たちの企みが全て保全部隊の隊員に知られた状態である。このまま通報が飛べば、この船ごと一網打尽にされることは火を見るよりも明らかだ。
「いやあ、もっと手っ取り早く解決する方法があるでしょ」
「…と、言いますと?」
「君を消せばいいんだから」
バットは引きつった笑いを浮かべ、引き金を引いた。火薬の弾ける乾いた音がして、薄汚れた床に薬莢がひとつ転がる。
しかし。
「………」
「…は?」
リンは無傷でそこに立っている。バットは思わず銃をもう一度確認するが、おかしな部分は見当たらない。もっとも、何がどうおかしいのかも見分けられないのだが。
「…」
「っ?!、ひい、うわ、来るな、こっちに来るな!!」
リンが銃を下げ、無言で迫る。
その動きを見たバットは狂乱し、引けるだけ引き金を引いた。そのうちに装填された分を撃ちつくし、ハンドガンは静かになった。
そうなってもバットは銃口を下げられず、やがてリンがバットの目の前にたどり着いた。
「…」
「え」
リンは黙ってバットのハンドガンを奪い、砲身を半分食いちぎって床に投げ捨てた。
「…嘘だろ」
Aが思わず漏らした。目の前で起こったことの、何もかもが悪い夢のようだったし、夢であってほしかった。
「ああ、そう言えば言い忘れていたことがありましたね」
リンが独り言のように言う。ハンドガンの半分を、ガムか何かみたいに吐き捨てながら。
「皆さんが探していた、幻の砂漠龍の情報、あれは私が流したんですよ」
「なんで、そんなこと」
Bが最後の勇気を振り絞り、震える声で尋ねた。
「何でって、それは皆さんを逃げ場のない場所におびき出して、確実に殺すためです」
「ひ…?!」
「おい、まさか…!」
リンに異変が起こる。細身の体がめきめきと不気味に膨れ上がり、異常に肥大化していく。肉体だったものはあっという間に天井まで届き、板という板を突き破り、床を軋ませてぶち抜いた。
Aたちは崩れる船から決死の覚悟で逃げ出そうとした。しかし、ここは砂の海の沖。あろうことか、救命イカダもない。
ところで砂漠龍にはアリやハチさながらの群れを形成する習性があり、群れの中心に居るのは一匹のメスである。アリなら女王蟻、ハチなら女王蜂と呼ばれる彼女は。
「じょ…!女王龍…!!」
バットが絶望の声を発した。
リンの肥大化が止まった。そこに居たのは、体高20mにもなるだろう、超大型の砂漠龍だった。
人間たちが安全な場所を探して、崩れた船の残骸のそこかしこに隠れようとする。
その中でバットは、通報装置を見つけることができた。そのスイッチを押せたことが彼の最後の幸運だった。マイク部分に自分でもよくわからない単語をわめきたて、装置だけを細いレーザー砲に狙撃された。
「それでは、死んでいただきますね」
女王は冷酷に口を開く。再度レーザー砲を吐くために。
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