青春を駆け抜けて

パンチでランチ

第1話

 真夏のグラウンド。蝉の声が響き渡る中、私はスタートラインに立っていた。

 名前は 八神 遥。陸上部二年。勝ちたいのに、勝てないことばかりだ。


 隣には、幼なじみの 千晴。私の最大のライバルにして、誰よりも信頼できる存在だ。

「遥、ちゃんと本気で来いよ。手ぇ抜いたら許さないから」

「うるさい! 今日は絶対勝つ!」


 ホイッスルの音と同時に飛び出した。

 砂を蹴る音、息が苦しくなる感覚。すべてを振り切って走る。

 ――けれど、ゴールテープを切ったのは千晴だった。


「また負けたかぁ……」

膝に手をつき、悔しさで涙が出そうになる。

そんな私の背中を叩いて、千晴は笑った。

「でも、前より近かったぞ。次はどうだろうな」

「次こそ勝つ!」

「その意気、その意気」



 陸上部には、仲間がいる。

 キャプテンの 近藤 は、厳しいけれど面倒見がいい。

「お前ら二人は良い刺激になってる。チームを引っ張れよ」

 マネージャーの 春木 は、いつも差し入れを用意してくれる。

「無理しないでね。笑って走れるのが一番なんだから」

 そして、一年生の 矢吹。

「先輩たち、ホント仲いいですよね! あ、でもレースになると殺気ヤバいです」


 そんな仲間と一緒に、最後の大会へ向けて走り込む日々が続いた。



 迎えた大会当日。

 スタートラインに立つと、千晴が横目で笑った。

「八神。今日で決着つけようぜ」

「望むところ!」


 ピストルの音が鳴り、私たちは飛び出す。

 ただ前を見て、ただ全力で――。


 ゴールテープを切ったのがどちらだったのか、正直わからなかった。

 でも、顔を見合わせた瞬間、私と千晴は同時に笑った。


「な、言ったろ。最後は一緒に笑おうって」

「……うん!」


 近藤が拍手し、春木が涙をぬぐい、矢吹が「最高っす!」と叫ぶ。

 あの青空の下で流した汗も涙も、全部が眩しい記憶になった。


 未来がどうなるかはわからない。

 けれど、この仲間と、この瞬間があれば――私たちはどこまでも走っていける。

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青春を駆け抜けて パンチでランチ @panchi_de_ranchi

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