5話:サブクラス


 色々考えてみたけど、魔物の暴走スタンピードを止める方法を何も思いつかなかった。『世界に抗う力を与える』って女神の言葉を信じて、俺のレベルを上げるしかなさそうだな。


 エディットツールで冒険者が攻略中の階層の難易度を上げれば、死人が増えて経験値をもっと稼げるだろう。だけどそこまでする気にはならない。


 俺が何もしなくても魔物に殺されたり、罠に掛かって死ぬ冒険者はいる。逆に冒険者が死なないように魔物を弱体化させることも考えた。


 だけどエイジ・マグナスだった頃の俺は、強くなるために自分から望んでダンジョンに挑んでいた。


 他の冒険者も理由はそれぞれ違うと思うけど、自分の意志でダンジョンに挑んでいる筈だ。強い魔物ほど経験値が多くて、良いアイテムとたくさんのコインをドロップする。魔物を弱体化させても、冒険者たちはより深い階層に挑むだけの話だろう。


 ダンジョンで冒険者が死ぬ度に、メイと組み手をする度に、経験値が入って少しずつレベルが上がっていく。そんな日々がさらに1週間ほど過ぎた頃だ。俺のレベルが15になった瞬間、ステータス画面にある文字が表示された。


『スキル『テストプレイ』を習得しました』


 これが『解放リリース』によって解放された力なのか? だけどテストプレイって……俺はヘルプをタップして説明を読む。


――――――――――――――――――――


【テストプレイ】


 サブクラスを習得することで自分がプレイヤーとなり、テストプレイモードでダンジョンを攻略することができるスキル。


 サブクラスを選択するとテストプレイモードで使用する派生スキル『収納庫ストレージ』、『全異常耐性オールレジスト』を習得する。


 テストプレイのスキルレベルが25、50、100になるとサブクラスをさらに1つずつ習得できる。


【サブクラス】


 サブクラスとして習得できるのは『ダンジョンズ&マジック』の全てのクラス。サブクラスを複数習得した場合は切り替えて使用し、同時に2つ以上使用できない。


 サブクラスを使用中はメインクラスである迷宮制作師ダンジョンメーカーとサブクラスで経験値が2分割される。


 迷宮制作師ダンジョンメーカーと使用中のサブクラスは個別に経験値を得て、それぞれのレベルが上がることで、クラスに応じたステータス、スキル、魔法を迷宮制作師ダンジョンメーカーが得る。


 サブクラスによって得た迷宮制作師ダンジョンメーカーのステータスは、別のサブクラスに変更しても失わない。スキルと魔法もそのまま使用できる。


収納庫ストレージ


 テストプレイの派生スキル。異空間にアイテムを収納して自由に取り出せる。魔物からドロップしたアイテムとコインは自動的に収納庫ストレージに収納される。収納できる重量と体積はスキルレベルによって増加する。


全異常耐性オールレジスト


 テストプレイの派生スキル。状態異常を無効化する。無効化できる状態異常の種類と確率はスキルレベルによって増加する。全異常耐性オールレジストを一時的にキャンセルすることも可能。


――――――――――――――――――――


 そう来たか……テストプレイだから効率的に攻略が進められるように『収納庫ストレージ』と『全異常耐性オールレジスト』を習得するってことだな。


 サブクラスを使用すると獲得できる経験値が2分割されるデメリットはあるけど、メリットの方が遥かに大きい。マルチクラス・・・・・・と似ているようで全然違う。


 『ダンジョンズ&マジック』では1人のキャラクターが複数のクラスを選択することができる。それがマルチクラスで、経験値は選択したクラス全てに均等に振り分けることも、任意のクラスに全振りすることも可能だ。


 クラス毎に一定の経験値が貯まるとレベルが上がって、クラスに応じたステータス、スキル、魔法を得る。ここまではサブクラスと大差なく、任意のクラスに経験値を全振りできるマルチクラスの方が有利だと思うかも知れない。


 だけど大きく違うのはステータスの扱いだ。マルチクラスはクラス毎に各ステータスが計算されて、その中で一番高いモノがそのキャラクターのステータスになる。


 例えば戦士ウォリアー魔術士メイジのマルチクラスで、戦士のSTRが15で魔術士の力が10だと、そのキャラクターの力は15になる。


 サブクラスの場合、レベルが上がったときにステータスを得るのはサブクラスじゃなくて迷宮制作師ダンジョンメーカーだ。


 つまり迷宮制作師ダンジョンメーカーは自分のレベルが上がったときと、サブクラスのレベルが上がったときに、二重にステータスを得るってことだ……これって結構なチートだろう!


 閑話休題それはさておき、俺はこの現状を打開するためにサブクラスとして魔術士メイジを選択した。


――――――――――――――――――――


名前 :如月エイジ 17歳

クラス:迷宮制作師ダンジョンメーカー レベル15

サブクラス:魔術士メイジ レベル1


HP 150

MP 155

STR 43

DEF 42

INT 53

RES 52

DEX 43

AGI 43


[スキルリスト]


迷宮制作ダンジョンエディット レベル15

解放リリース レベル15

テストプレイ レベル1

魔術士魔法メイジスペル レベル1

収納庫ストレージ レベル1

全異常耐性オールレジスト レベル1


[魔法リスト]


魔術士第1階梯魔法 催眠スリープ 焔弾ファイアバレット


――――――――――――――――――――


 『催眠スリープ』と『焔弾ファイアバレット』は魔術士が最初に覚える魔法だ。


 試しに『焔弾ファイアバレット』を発動してみると、炎の塊が高速で射出されて壁に穴を開ける。ダンジョンの自動修復能力なのか、壁は直ぐに元に戻ったけど。


 魔術士魔法スキルがレベル1でも『焔弾ファイアバレット』の威力がそれなりにあるのは、俺の知力INTが高いからだ。『ダンションズ&マジック』の魔法は知力INTによって威力が加算される。


 これで今まで全く意味がなかった俺のMPが有効利用できることが解った。制作室エディットルームから出られないと、魔法が使えても意味がないけど。


 それでも希望が見えて来た。サブクラスである魔術士のレベルが上がれば――


※ ※ ※ ※


 サブクラスを選択してから、確かに獲得する経験値が2分割されるようになった。


 まるで2人でパーティーを組んでいるように、メインクラスである迷宮制作師ダンジョンメーカーと、サブクラスである魔術士に半分ずつ経験値が入って、それぞれ経験値が一定まで貯まるとレベルが上がる。


 さらに2週間ほどが過ぎて魔術士のレベルが15になったとき、俺が待ち望んでいた魔法を習得する。魔術士第7階梯かいてい魔法『転移テレポート』だ。


 こんなに早くレベルが上がったのは、メイとの立ち合いの回数を増やしたからだ。おかけで肉体的にも精神的にも鍛えられた。


 制作室エディットルームには出口がないけど、『転移テレポート』を使えば外に出られるんじゃないか? 俺はずっとそう考えていた。


 『ダンションズ&マジック』の『転移テレポート』は移動先の座標を指定する。だけど一度でも訪れた場所じゃないと座標として指定できない。


 迷宮制作師ダンジョンメーカーの俺は制作室エディットルームから出たことがないけど、冒険者だったエイジ・マグナスはダンジョンの4階層を攻略していた。


 魔術士第1階梯魔法『地図マップ』で、エイジ・マグナスが行ったことがある場所が踏破とうは済みとして表示されることは確認済みだ。俺は1階層のある場所の座標を指定する。


 『転移テレポート』を発動すると、一瞬で景色が変わって目の前にダンジョンの廻廊かいろうが現れる。よし、成功だ!


 もしこれが上手く行かなかったら、攻撃魔法を撃ちまくって制作室エディットルームの壁を破壊するつもりだった。そんなことをしたらメイが怒りそうだけど。


 周りに他の冒険者がいないことは制作室エディットルームの映像で確認済みだ。いきなり『転移テレポート』で現れたら不審に思われるからな。


 今の俺の格好はジャージにサンダル、装備なんて一切ない。制作室エディットルームにあった衣類と履物は、ジャージと下着に靴下とサンダルだけだった。この格好で外に出たら、近くのコンビニに出掛けるニートって感じだ。


 単純に制作室エディットルームから出たかったのもある。だけど俺の目的は魔物の暴走スタンピードを止めることだ。自分が作ったダンジョンで魔物の暴走スタンピードなんて起きたら堪らないからな。


 他の冒険者に話して協力して貰うことも考えた。だけど最下層付近の映像を見ていない相手が魔物の暴走スタンピードが起きるなんて信じるとは思わない。


 だから俺の手で止めるしかないだろう。1人で何ができるんだよと思うかも知れないけど、俺ならできる筈だ。


 この『ラストダンジョン』を作ったのは俺だから全てを知り尽くしているし、迷宮制作師ダンジョンメーカーとサブクラスの組み合わせはチートだからな。


 魔術士第2階梯魔法『索敵サーチ』を発動する。サーチは周囲の人や魔物を感知する魔法で、これで不意打ちをされることはないだろう。


 まずは今の俺がどこまで戦えるか、腕試しをするために廻廊を進む。今はソロだから油断しないで1階層から攻略を始めることにした。

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